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師とは弟子に通れない道を諭してやるものである

SS
01 /07 2009
 師とは他者に力や精神を授けるものである。
 この力こそが全てである世界では、強さを求めて、他に師事を求めることももっともであろう。
 俺は他人に教えることなどほとんど有していない。大して強くないし、特別な術式を持ってはいるが、それも別に戦闘向きではない。それなのに、
「おししょーさまー!」
などと呼ばれているのだろうか?

「もぉー、お師匠様、本気出してくださいよぉー。」
目の前の一面の空から視線を外し、俺を見下ろしている、女性と言うより女の子、ソルユを見上げる。

師とは

少々呆れ顔をしているが悔しいとも思わない。
「だから、本気なんだって。おまえはなにを俺に期待している?」
「そんなこと言ってー、こんなの絶対、お師匠様の実力じゃないですよー。」
なんか勘違いされてるようで、逆にここまでしつこいといいかげん面倒くさくなってくるもので。
「だいたいなんだ?そのお師匠様って。おれはいつからおまえの師匠になったんだよ?」
「むぅ・・・そんなこと言ってもお師匠様はお師匠様なんです!私の強くなりたいって気持ち、なんでわかってくれないんですか?」
「それならそれで相応の人間がいるだろう!なんで俺なんだよ?」
「お師匠様こそふさわしいでしょう!私の術式、破ったじゃないですか?」
「あの術式は・・・」
「自慢じゃないですけど、私の、あの『暴走』術式は一度も敗れたことがなくて、効果が切れる頃には周りに立ってるものは誰一人いないって代物なんですよ!それをお師匠様は交戦して、目の前に立っているんですもの。いったいどうやったって言うんですか?」
「そ、それは・・・」
そこらへんの事情は詮索されたくない。まあ詮索に応えないからここまでしつこく付きまとわれてるのだろうな、とは思うが話したくないものは話したくない。
 起き上がり、ソルユに背を向け、自分の荷物をまとめて歩き出す。
「おまえ、もうついてくるな。」
「ちょっと、待ってくださいよ!」
 ソルユはキャンプに荷物を広げていたから片づけに時間がかかるだろう。その間に追い付けないところまで行ってしまおうと歩く足を速める。
 
ただ、ソルユからできるだけ離れられるように適当に歩を進めていたのだが、それがまさか、こんなことになろうとは。

「命が惜しけりゃ、持ち物全部おいていきな!」
完全に取り囲まれた。一人ぐらいなら太刀打ちできなくはない腕はあるのだが、十数人に取り囲まれてしまっていては、もうお手上げ状態だ。おとなしく長年の一人旅生活に付き合ってくれた、いや最近は二人旅になってはいたが、道具たちに別れを告げる。そして、野盗たちが道具を金目のものはないか漁っているうちに、逃げてしまおうと機会を見る。もう俺のまわりには金目のものはなさそうだから逃げたは逃げたで、気づいても追ってこないだろう。いまだ、というタイミングでその場に背を向け、静かに足を進める。
「おい、ちょっとあんちゃん。待ちな。」
思ってもいなかったところから声をかけられる。振り返ると他の野盗とは雰囲気の違う人間がそこに立っていた。
「まだ全部、置いてってねぇだろ?首にかかってるの、光ってるぜ。」
咄嗟に首元を抑える。いつもは服の中に綺麗に隠しているはずだったが、今日、ソルユと仕方なしに手合わせをした際に出てきたのか、ネックレスの鎖が少し、はみ出ていた。
正直、これだけは渡したくはなかったのだが。しかし、目の前の相手から直感で逃げられないと感じていた。幸い、他のやつらはこっちに気づいていない。剣はやつらに取られているが、ここは、押し通る!
相手の懐に素早く踏み込む。
そこから相手の顎をめがけて、ショートアッパー。
・・・当たらなかった。
その野盗は俺の腹部に拳を打ち込み、それに敢え無く膝を屈してしまった。
「おいおい?冗談だろ?踏み込みはよかったが、攻撃がお粗末すぎるぜ?」
野盗は的確に鳩尾を打ち込んでおり、俺は体が動かせなかった。
「じゃあ頂戴するとすっか。こっちは期待外れじゃなくてくれよ。」
「や、めろぉ・・・」
手を掴もうとするが、手が動かない。簡単に首元のネックレスを引きちぎられる。
「ああん?ソケット?・・しかも、中身は女の写真たぁいい御身分だ。」
「かえせぇ・・・」
「まったくどんだけ期待外れで調子のってんだ?んー・・・そうだな、よし殺そう、こんな使えねぇやつは殺してしまおう。」
野盗は腰からナイフを抜き、頭上に振り上げる。その時、

「おししょーさまー?」
少し離れたところで間の抜けた呼び声が聞こえた。
「ソルユ!」
絞り出した声に倒れてる俺に気づいたのか、
「なにしてんすか・・・?」
「見ての通りだ。」
素朴な疑問を投げかけてくれた。
 そこでやっと野盗の振り上げているナイフに気づいたのか、
「大変やないですか!」
と危機的な声を上げていた。思わず、俺は頷いていた。
「にしてもですねーお師匠様を組み伏せるとはなかなかの手練とお見受けしました。」
「ははは!なんだ?おまえこいつの弟子なのか?おいおい、たかがしれてるなぁー。お?見ると、なかなかかわいい感じじゃねぇか?こいつの代わりに俺が師匠になってやろうか?」
「せっかくですけど、遠慮しときます。お師匠様からはまだ全てを教わってませんから。」
本来なら師匠冥利に尽きることを言ってもらっているのだろうけど、ちっとも嬉しくなかった。
「それにですねー・・・私、あなたたちのような人嫌いなんです。強くなりたいのはですねー王立騎士団に入ってあなたたちのような人たちをしょっ引くためなんですよ。」
その軽い言葉の裏の威圧感からか、野盗も口をつぐんだ。
「数も多いですし、術式使って一気にやっちゃいますね。それにあなた、結構強そうですし、全力じゃないとまずいですしね。」
そう言ってソルユは目の前の空中に印を結び始める。もう何度も結んでいるのか、手早く印を結び終えると、それを手に取り、額に張り付けた。
ソルユの額に光の印が刻まれるのが確認されるや否やの瞬間、野盗が前に躍り出る。
野盗は次の瞬間、一気に距離を詰めたソルユの拳を鼻っ柱に受けて吹っ飛んだ。『頭領―っ!』と『おまえよくもーっ!』という声が続いて、次には断末魔に変わる。
ソルユが使う『暴走』術式は思考力を削る代わりに肉体の力を極限まで強化するというものだ。この術式により筋繊維を強固で柔軟なものにし、また神経を太くし、伝達をより高速なものにする。脳への高負荷により、思考力が疎かになるが、過ぎた力は思考を上回るのは相手にも同じで、たいていの相手だとねじ伏せられる。実際、ソルユは俺に会うまで術式を発動した場合には周りに立っていたものはいないわけであって、現在もこんな惨状である。ちぎっては投げ、ちぎっては投げ状態なのである。十数人いた相手がまた一人、また一人と戦闘不能に追いやられていった。終には最後の一人も『化け物・・・』と口から捻りだしながら倒れた。
戦う相手がいなくなっても術式は続く。ソルユはきょろきょろと次の獲物を探す。まるで化け物のようだった。

俺は彼女がこう呼ばれるのが嫌だった。
戦場において、敵を薙ぎ払う狂戦士。そして、敵じゃないものもまとめて薙ぎ払ってしまう化け物。彼女はそんな存在だった。
そう呼ばれるのが嫌だったけれども、昔の俺たちは戦うしかなかったのだ。生きるために戦って、戦いが終わっても続く、この術式をなるべく早く解きたくて、解呪の術式を夜も寝ないで、作り出した。
俺は立ち上がる。それに気がついたのか、ソルユは次のターゲットを俺に設定する。ソルユの術式を解くには、額に解呪の術式を打ち込まないといけない。解呪の術式はもう準備している。右手の甲に刻んである。
ソルユが、こっちに突っ込んでくる。それにタイミングを合わせて、前に踏み込む。
これを決めるために何度も動きを研究し、タイミングを計った。
その動作は体に染みついている。額に掌を当て、一言唱える。それに伴って、手の甲の印が発光し、ソルユの動作が止まった。

「あれ?私?」
「おつかれさん。助かったよ。」
「やっぱり、お師匠様立ってる。やっぱ強いんじゃないですかー。」
と言って、ソルユはその場に膝をつく。『暴走』術式を使うと身体を疲労が襲うらしい。動けないわけではないが、動きたくなくなるらしい。筋繊維強化と神経強化の実際に持っている筋繊維と神経の齟齬が出ているせいだろう。
「ちょっと休んでろ。」
そう言っておいて、俺は獲られた荷物の回収にあたる。生活道具から、そして、ネックレス。その先のソケットは開いたままだった。
そこに写っているのは昔の彼女。ソルユと同じ『暴走』術式使い。
彼女は術式使用中に護衛目標のお偉いさんを攻撃してしまい、効果が切れた後にそれを問われ、殺された。その時、どうして俺は止めれなかったのだ、と悔しくてならない。それ以来、解呪の術式は使っていなかったのだが、初めて、ソルユの暴走に巻き込まれたとき、久しぶりに使ってしまった。もう二度と使わないと思って、忘れようと思っていたのに。
「ほら、立て。」
「ふえ?」
「歩くぞ、神経と肉体を慣れさせろ。この街道を行くと街がある。そこでこいつらのことを報告して、休むとしよう。」
ソルユに手を差し出す。
「お師匠様・・・やっぱりお師匠様はお師匠様ですね。」
「何言ってんだ?余計なこと言ってると置いてくぞ。」
手を引こうとするその手を、ソルユは慌てて掴み、立ち上がる。
「いえ、行きます、行きます!」

 こいつを見ているとどこかほっとけない思いがある。今、自分で突き放したはずなのに、また連れて行っている。昔の彼女の影を重ねているのか?いや、そうではないと信じたい。弟子を持つということは、こういうことなのかもしれない。慕われているうちは色々と教えてやりたいと思う。術式使用後のケアであったり、この術式を持った同じ女性がどういう生涯を送ったか。
 そして、『暴走』術式持ちは王立騎士団には入れない、ことを。

挿絵:葦
文:崎原
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崎原 一研

エキゾチック:
外国の雰囲気・情緒のあるさま。異国的。
外国の人から見れば日本も外国。

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