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GoodLack 04-03

GoodLack
12 /01 2011
 目が覚めると、そこは見知らぬ場所。
 薄暗いライトに照らされ、いくつかのコンテナが視界に入る。しかし、それも数が少なく、この場が使われているという様子ではない。
 先の地震、それに伴う地盤沈下の影響でアクセスの悪くなった地区がある。おそらくここはその影響で使われることのなくなった地区にある一施設だろう。
 いや、正直場所なんて特定できても仕方がない。それ以上の問題がある。
 そう、問題なのは私が椅子に縛り付けられ、複数の男に囲われているということだ。

「あの…私になにか御用ですか…?」
 すぐ近くの壁に寄り掛かっている見覚えのある男に声をかける。遊園地で出会ったスーツの男だ。他の男達は遠巻きに私を見ている。薄暗いので表情までは読み取ることができない。ただ、友好的といった感じではない。
「ああ、そうだ。まあ失礼なことをしているとは思う」
「いや、失礼ってそんな次元過ぎてるでしょうよ…」
 誘拐という言葉が一般的にはしっくりとくる。この男とは少し会話をしただけ。それなのになんでこんな人気のないところへと連れ込まれ、椅子に縛り付けられるという事態に発展しているのかがわからない。
 ついさっきまで私は、遊園地にいた。
 羽塚たちといっしょに。

 この男と会話して、その後あいつが来たんだ。そこで私はあいつに拒絶の言葉をぶつけた。そのことを思い出すと、胸が詰まる思いがして、一人歯を噛み締める。
 自分でもどうかと思う。今この状況に置かれていて、誘拐されているということよりも、羽塚のことを考えることの方が心を痛めてしまう原因となっている。
 なに泣きそうになっているんだろ…。自分から拒絶するような真似をしておいて、今その時のことを思い出すだけで、こんなにも悲しい気持ちになってしまうなんて。
「お嬢さんが彼といっしょにいたくないと言ったのだろう?私はそのお手伝いをしただけさ」
 それにしたって、こんな風に人気のない倉庫で椅子に縛り付けてくれとは言っていない。まあそうは言えない状況ではあるが。羽塚のことを考え、一人ネガティブになっていたって仕方ない。なんとかこの状況を打開できないものか。
 今思えば、この男とは遊園地で唐突に出会ったのだ。丁度羽塚と言い合いをした後、私が一人になるタイミングを計って、接触してきたのだろう。羽塚にムカついて、苦しくて、だれかに縋りつきたい、そんな時に優しい言葉をかけられたからか、思わず、羽塚に対する不満などを話していた。その後も私の気持ちを羽塚に代弁してくれるなど、私の気持ちを察した行動を取ってくれた。表情は厳しくて、風貌も柔らかくはない。そんな男ではあるが、悪人と言う印象はしなかった。どこか芯を持っていて、頑なに真剣に生きているといった印象を抱いたのだ。
 そんな印象からか、この男は悪い人ではないと思い込んでいたのだろうか。ついさっき知り合ったばかりの男と言うのに完全に油断していた。

 「私が油断していた」そこでふと思い当たる。
 あの場には、私とこの男だけではない。頼んでもないのに追ってきた、あの馬鹿男がいたのだ。
「あんた羽塚はどうしたの?」
 私が油断をしていたとしても、あいつがいたのだ。私が目の前で連れ去られるのを黙って見ているわけがない。
「喧嘩していた男が気になるのか?結構なことだ」
 あいつのことなんてどうでもいいと言っておきながらも、あいつのことをどうしようもなく気にしている。あいつが私を助けてくれると思い込んでいる。自己嫌悪で心が折れそうだ。
「いいから答えなさい」
 それでもあいつがどうなったのか聞きたいのだから本当に私はどうしようもない女だ。男はやれやれといった風に首を振り、
「彼なら少し交渉をしたら、あっさりと引き下がってくれたよ。こちらとしても拍子抜けだったな」
 そう答えを返した。

 羽塚があっさり引き下がった?
 気づけば、頬を涙が伝っていた。こんなにもあっさりと涙を流している。
 あんなにも私は羽塚を遠ざけようとしていた。そんな中でもどこか心にこんな想いがあった。
 あいつが私を見捨てるわけがない。頑なに私を守り続ける。
 勝手な考えだとわかっている。わかっているのに、そう信じていた。
 喪失感、そして、恐怖。
 羽塚があっさりと引き下がったというだけでこんなにも自分は不安定になっている。
「うそでしょ?」
 だから、その事実を認められない、認めたくない。
「じゃあ、お嬢さんはなぜここにいる?」
 羽塚が私が攫われるのを引きとめたのならば、私がここにいる時点でおかしい。羽塚は恐ろしく強いのだ。天界の秘密兵器とかいう『希望ノ羽』も持っている。ここにいる人間が全員、束になってかかってもあの羽塚に敵うとは思えない。

「口先では『離れない』とは言っていたが、事実はこうだ。まあ丁度いいじゃないか?いっしょにいたくない、そう言っていただろう?」
 支えを失った自分が崩れ落ちそうだ。
「そこで私たちはお嬢さんに新たな拠り所を用意してやろうと思ってな」
 でも、羽塚は「あなたから離れません」と言った。
「私たちがお嬢さんを誘拐したのは、お嬢さんに死んでもらうためだ。できれば自害をしてもらいたい。羽塚という未練のなくなったこの世界と自ら別れろ」
 意識を失う前、最後に聞いた言葉だ。
「一時の苦痛はあるが、死んでも人生はその後も続く。心配はいらない。お嬢さんの次は決まっているのだ」
 そう言っていたんだ。
「神になってもらう」

 神。その単語はつい最近も耳にしていた。
「あなたたちは天界とかいうとこから来たの?」
「そうだ」
「てことは、一度あなたたちも死んでるのね」
「そのシステムを理解しているとは話が早い」
 前に羽塚が言っていた。天界の人間は一度死んでいる。
 生前、不幸だった人が、生を真っ当できずに死に、転生したものが天界の住人となる、そういう話を聞いた。誘拐の目的は私を死に追いやり、天界の住人、それも神として転生させるということらしい。誘拐され、死に追いやられる、たしかに不幸な死に方だろう。
「でも、神って入鹿がいるんじゃないの?」
 そして、天界の住人は予知能力持っていて、その能力は生前の不幸の度合いによって左右される。
「それが…問題なのだ」
 男は静かに言い放つ。そこには怒気のようなものが含まれていた。
「今の天界のシステムは、全てのことを三橋様に任せすぎなのだ!あのような激務では、不幸であった生前と大して違わない…」
 冷静だった男がわずかに感情を表す。その様子を私が見つめているのに気づき、男は軽く咳払いを挟む。
「神は別に一人でなくてもいいのだ。お嬢さんほどの不幸ならば、三橋様にも匹敵した予知能力を得られるはずだ。それにおまえが神になるというのは羽塚も容認している」
 私は天界からの特別命令で、専任の観察者を付けられるほどの不幸を持っているのだ。不幸の度合いが予知能力の強さに比例するということならば、たしかに私の予知能力はかなりのものになるかもしれない。
 私の不幸が、人を不幸から救うのに役立つ。私が神になるということは、入鹿が私に羽塚を派遣してくれたというようなことを、今度は私がするということ。人を救う、そういったことができるのであれば、神になるのも悪くはないかもしれない。

「三橋様の、そして、皆の幸せのために死んではくれないか?」
 しかしだ。
「そんなのいやよ」
 その否定の言葉に男は怪訝な顔を見せていた。
「お嬢さんは献身的な人物だと聞いていた。人のためになるなら自分すらも投げ出すと」
「だからって死なないわよ」
 羽塚への未練も断ち切り、説得できるつもりでいたのだろう。男はどうにも合点がいかないと言う表情だ。
「だいたい確実に天界にいけるわけじゃないって聞いたことがあるわよ?それに私は」
 たしかに骨身に染みる説得をしてもらった。自分を省みず、人のためになろうとはたしかに思っているさ。
 人のためになるのなら自分は死んでもいい。以前はそう考えていた。
 でも、あの事件以来私は、
「自分の意志では絶対に死んでやらない」
 そう決意したのだ。

「私は生かされているの。羽塚は必死に私を守ってくれた。身体を張って、時には自分の命すらも投げ出して…。入鹿だってそうじゃない?激務でもなんでも投げ出さずにこなして、あの事件を読み取り、羽塚を護衛に当ててくれて、私を救ってくれた。そんなに必死になって、私を生かしてくれてる人がいるのに、その私が命を投げ出すなんてしていいことじゃない」
 人のためになるならば、私の身すらも佳境へと投げ出そう。しかし、どんな状況でも、私は生きるのを諦めない。最期の瞬間になるまで生き残ってやる。私が簡単に私を諦めたら、私を助けてくれた人たちはなんのために努力をしたというのか。
「しかし羽塚はおまえを…」
「見捨てた?私が死んで神になることを容認した?そんなわけないじゃない!あいつは『あなたから離れません』って言ったの!まったく迷惑なやつね!あいつはね、一度決めたことは何年越しでも曲げない頑固者なの!鬱陶しいったらありゃしない…。どういうわけか今はこの場にいないかもしれないけれど、いずれここに来て私を助け出すわ!」
 羽塚が私を見捨てたというのは、きっと嘘だ。私が弱っている時に、唐突に出てきて、声をかけてきたこの男こそ胡散臭い。まったくよくできた筋書きじゃないか。
 思っていた以上に私は羽塚に依存していた。私はそれだけ羽塚のことを信じていた。それだけ羽塚を信用できる男としてみていた。
 私は羽塚を信じているのだ。
 あいつが『あなたから離れません』と言ったら絶対にそうなのだ。

「交渉は失敗のようですね」
 今まで話していたスーツの男とは違う声。私と男の会話を傍観していた者の一人がこつこつと私の方へと歩み寄ってくる。スーツの男よりも大分若く見えるが、頭髪をオールバックに固め、どこか気味の悪い雰囲気を漂わせている。
「一騎さん、もういいでしょ?交渉なんて無駄だったんですよ。さっさとやらせてください」
 スーツの男は一騎と呼ばれる。一騎と呼ばれた男はチッと舌打ちをし、
「貴様のような輩に名前で呼ばれる筋合いはない」
 と吐き捨て、壁から背を離し、私に背を向ける。
 その行動を肯定と受け取ったオールバックの男はニヤリと笑い、私に話しかけてくる。
「鐘ヶ江希望さん、こういう話は知っていますか?天界への住人へと転生する際、献身の心を持って、自害するとその魂は徳の高いものとして、転生できる確率が上がるんです」
 口端を吊り上げ、嫌な笑い方をする男だ。
「だからどうしたの?自害なんてしないわよ」
「そうなんですねー、自害していただけない!しかし、私たちはあなたを確実に天界へとお迎えしたいわけです」
 一騎と呼ばれた男とはまったく逆の印象だ。
「そういうわけでしてあなたには、最高に不幸な死に方をしてもらい、転生できる可能性を上げてもらおうかと思っています」
 表面上は笑みを浮かべているが、悪い印象しかしない。
「ああ、楽しみです!あなたが悲痛な叫びをあげながら、早く殺してくれと嘆願する様、実に不幸だと思いませんか?」
 腰を折り、椅子に縛られた私を品定めするように見回す。ニヤニヤと気持ち悪い顔だ。
「言っておくが、その男は普通ではないぞ。人を苦しめるのを至上の喜びとしている。拷問が趣味のようなやつだ。胸糞が悪い」
 一騎と呼ばれたその男にそのように言われても、心外ですねーとオールバックの男は笑っている。
 これから私は拷問され、殺されてしまうのか。拷問なんて私にはまったく無縁のものだと思っていた。正直想像が付かない。ただこの男の気持ち悪い笑みからして、ただではすまないだろうことは容易に想像できる。
「苦痛に耐え切れなくなったら言え、自害する機会をもう一度やろう」
「だれが言うもんですか…」
 私は一騎という男を睨み付ける。その視線をものともせず、倉庫の入り口の方へと歩いていった。
「途中で止めるなんて無粋な真似はやめてほしいですね。まあお嬢さん、音は上げないでね」
 今度はオールバックの男を睨み付ける。気を強く張っていないと、恐怖に押しつぶされそうだった。
「いいねいいね!どうしてやろうか!そうだ、女性は女性らしく扱ってあげないとな、辱めかなやっぱり」
 オールバックの男はポケットからナイフを取り出し、刃を出し、手の平でくるくると回転させる。次の瞬間、ナイフは振り上げられる。それとともに上着のボタンが二つ弾け飛び、内側の白いブラウスを晒す。
 一瞬の出来事に私は目を丸くしていた。たしかな切れ味のナイフ、それがこれから私に突き立てられるのだ。
 その痛みを想像し、恐怖が増す。
 私の顔から血の気が引く様子に気をよくしたのか、男はさらに口端を吊り上げ、次々とブラウスの上をナイフで這わせていった。冷たい刃が時々肌に触れるぞくりとした感覚。身体を覆う白い布が裂け、肌を露出させていくという羞恥。その味わったことのない経験が私を恐怖へと誘う。
 椅子に縛られ、自由を奪われている私は、この男の気分次第で切り刻まれていくのだ。為すがままにされ、殺される。
 死、それを強烈に意識してしまい、身体が震える。
 怖いのだ。痛みが、死が。
 この恐怖から逃げ出したい、助けてほしい。

 どんな時でも私を助けてくれていた人は今ここにいない。
 一騎とか言う男に、あんな啖呵を切ってしまったが、彼は本当に私を見捨てたのではないか?
 あれだけぼろぼろに言ってしまったのだ。もう愛想を尽かされたのではないか?
 彼と会えぬまま、私は死んでしまうのか?

 いやだ。
 ブラウスを切り裂かれ、身体の前面が露出する。
 怖い、怖いよ。
 ブラの谷間部分へナイフが当てられ、そのままぷつりと切られ、両脇へとブラが落ちていく。
 助けて、助けてよ。
「恐怖と羞恥が混じったその表情最高だね」
 会いたい、羽塚に会いたい。
「んじゃ、次は痛みで表情を歪めてもらおうか」

ズドォォォォォォォォオン!!!

 急に大きな音がなり、振動がすぐ近くで起こる。
 恐怖で硬く目を閉じていた私はなにが起こったのかわからなかった。
 しかし、次の瞬間、
「白馬の王子様が助けに来ましたよ」
 とても聞きたかった声が聞こえたのだ。
 その不意打ちに驚きながら、目を開ける。
 するとそこには、淡い光に包まれた最愛の人がいたのだ。

 ああ…

 もうこれはどうしようもない。
 どうすることもできない。
 今まで喧嘩していたとか、遠ざけようとしていたとか完全にどこかへいってしまった。

 やっぱり私は…
 こいつのことが好きだ。
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崎原 一研

エキゾチック:
外国の雰囲気・情緒のあるさま。異国的。
外国の人から見れば日本も外国。

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