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GoodLack 03-04

GoodLack
07 /25 2011
 こんなもんだれが考え出しやがった!
 と怒る気力もすでになく、悟子の腕に必死にしがみつき、なんとかコースターから這い降りてきた。それから悟子に肩を借りて、近くのベンチに座らせてもらった。恐怖もさながら、上下左右に振られ、酔いもひどいことになっている。乗り物に弱いわけではないのだが、精神的な弱さから気持ち悪さを倍増させ、うまく立っていられなかった。

「大丈夫ですか?」
 入鹿が背中をさすりながら、優しい声で気遣ってくれている。
 ほんと迷惑かけてごめんなさい。今日は目一杯楽しませてあげる予定だったのにこんな体たらくでごめんなさい。そんな優しさを向けられると惨めすぎて心が辛い。
「だ、大丈夫…大丈夫だから…」
 必死に表情を取り繕うが、その影で冷や汗が身体をつたっていた。
「でも、顔色が優れないようですけど…」
 頭はぐらぐらするし、胃の中のものを吐き出してしまいたいと身体が訴えている。
「あ、あー…そうね。ちょっと訂正するわ…ちょっと、休めば大丈夫だから…」
 しゃべっているのもしんどい。肺が新鮮な空気を求めている。ちょっとした過呼吸状態に陥りそうだが、残り少ない気力で押さえ込む。
「だから私のことは放っておいて、さっさと遊んできなさいよっと…」
 と言って、入鹿の額をトンと小突いてニッと微笑みを見せる。入鹿はなにか言いたそうに私をおろおろと見つめている。まったくかわいいやつめ。そんな目で見つめられたらこっちが折れてしまいそうだ。

「大丈夫なのね?」
 悟子から私に助け舟が出る。それに対して、手でオッケーサインを示して、目で合図を送る。その合図は『いーからさっさといけ』という私が課長に怒られる時に悟子がおもしろげにその様を見つめているのを追い払うもの。 悟子はどうなっても知らないわよと言った風に溜息をつき、
「大丈夫、そうね。まあ本人がこう言ってるんだし…入鹿ちゃん行きましょうか。あんまり私たちに気を遣わせてると休めるものも休めないわ。」
「え、でも…はい…」
 悟子が入鹿の手を取り、入鹿はそれに引かれ、やっと足を動かす。入鹿は少し離れたところで振り返り、
「はやくよくなってくださいねー!」
 と声をかけてくれた。はいはいと精一杯の笑顔を向けて、手を振って見送る。途中何度か振り返り心配そうにこちらを見つめていた。健気なものだ。ただ、今は勘弁してほしいという気分だ。平気そうな体裁を保っているのがやっとなのだ。

 こちらの様子が見えなくなるところまで悟子が入鹿をつれていき、堪えていた溜息を吐く。体重をベンチの背もたれに預け、青い空を仰ぎ見て、ゆっくりと呼吸を繰り返す。

 まったくこっちはしんどくてさっさと休みたいっていうのに、
「さっさと」
 こいつはなんでまだいるんだと、
「いけ!」
 ベンチに座ったまま蹴りを入れてやった。

 上を向いたままだったので、「あいたっ」と囁きのような声だけが返ってきた。
「二人とも行ったわよ?さっさと行かないとはぐれるわよ。」
 ちょっとしゃべるのもふぅふぅ言いながらやっとだってのに余計なことをさせるんじゃない。
「しかし、希望さん…いたっ」
 余計なことを言われる前にもう一度蹴りを入れてやる。足を上げるのも結構しんどかった。
「い・き・な・さ・い!」
 語気を強めて同じことを促す。ちょっと吐きそう。

 有無を言わさない雰囲気を出しているのに、未だそこに佇んでいる。いい加減しつこい。
「一体どうしたんですか!?」
 おまえがどうしたと言いたいところだが、真剣な雰囲気の羽塚に沈黙で応える。
「嫌だったなら嫌だと言ってください!」
 予想通りの質問。
「なんかおかしいですよ!」
 はいはい、わかってるわよ。
「無理していませんか?」
 無理してるわよ、悪い?
「見栄を張らないでください…」
 …こいついい加減にしろ。

「見栄張っちゃ悪いの!?」
 頭がズキッとする。
「おかしいわよ!無理してるわよ!」
 なんでこんなこと言わなきゃいけないのよ。
「入鹿みたいに可愛らしいわけじゃないし、そんなに女らしくもない!」
 だいたい私、なに言ってるんだろ。
「こんな私が大人ぶって、必死に体裁取り繕って、劣等感で見栄ぐらい張るわよ!」
 もう頭が痛いどころか、気持ちが悪い。
「だって、だいたい、あんたが…っ、入鹿のことよろしくって…」
 ダメだ。これ以上は嫌だ。自分が嫌な人間になってしまう。自分だけが幸せなんてそんなの嫌なんだ。

 ぐっと溢れ出す感情を抑えて、ベンチから立ち上がる。
「私…帰るわ…」
 まだふらつく足を必死に堪える。立ち上がった私に「あ」と羽塚が手を差し出す。しかしその手は取らず、羽塚の横を抜ける。
「ほら、さっさと行きなさい。私がこのままいても、迷惑かけるだけだろうし、入鹿と二人きりで楽しませてあげなさいよ。悟子もきっと気を利かせて帰るわ。」
 そう言い捨てて、足早に歩き出す。
「入鹿がいる間は入鹿を第一に考えましょう。」
 羽塚はそういう風に言っていたし、別に私は異論ない。入鹿に幸せを感じさせてあげたい。それが一番いいことなんだ。

「…希望さん!」
 羽塚の方は振り返らない。こんな惨めで泣きそうなのを堪えた顔、絶対に見せられない。
「あの…っ、ごめんなさい…」
 それに応えることはなかった。

 歩いて、歩いて、羽塚からは見えない建物の影に入る。
 建物に寄りかかり、その場に座り込み、堪えていたものが溢れ出す。

「謝んなよ…ばかぁ…」

 自分の惨めさ、必死さ、醜さ、そして、わかってもらえない悲しさ。
 それが雫となって溢れ出してくる。
 止まらない。止められない。
 こんな自分が嫌い。なんでこんなのが自分なの。
 羽塚も嫌い。あんなやつ…嫌い。

 嗚咽を漏らしているとふと背後でこつりと足音が聞こえた。
「はづかっ!?」
 反射的に振り返るもそこに立っていたのは羽塚ではなかった。

「お嬢さん、無理はよくない。」

 ラフにスーツを着崩した、遊園地には似つかわしくない男がそこに立っていた。
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崎原 一研

エキゾチック:
外国の雰囲気・情緒のあるさま。異国的。
外国の人から見れば日本も外国。

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