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GoodLack 02-03

GoodLack
01 /25 2011
「ただいま、もどりましたー。」
「ただいまですー。」
「おっかえりなっさーい」

 私の背後で挨拶の応酬が聞こえる。
 出迎えた悟子は、片手に缶チューハイ、それも、テーブルの上に空けてある缶が見える限りでも、5,6本目だろう。帰ってきた二人の方にくるりと振り返ろうとして、バランスを崩し、ぐでーっと寝そべってしまう。その自身の失敗に対して、さも上機嫌に笑っていた。

「希望さん!」
「ん、おかえり。」
 私はというと、夕食の準備をしていた。
「体調の方は大丈夫なんですか!?頭はもう痛くないんですか?」
「うん、大丈夫。」
 羽塚の心配を他所に、私は野菜を刻みながら、応答する。
「本当ですか?」
「本当よ。ちょっと今、刃物持ってるから話しかけないで。」
 料理はそんなに得意ではない。会話で集中力を切らしながらうまくできる自信はない。
「あ、夕飯ですね?手伝いますよ。」
 羽塚は上着を脱ぎ、腕まくりをして、手を洗おうと隣にくる。
「いや、いいわ。今日は私が作りたい気分だったから。羽塚はくつろいで待ってて。」
「で、でも…」
「いいからいいから。」
 と言って、包丁を置いて羽塚の方に向き直り、自分は元気になったと笑顔を見せる。その視界に入鹿が入った。

「ねっ?入鹿さんも待っててね。」
 笑顔で。昨日のことなど、何も気にしていないという何食わぬ顔で。
「……はい。」
 対して、入鹿は不思議そうな顔だった。ちらちらっと私の方を何度も見つめる。
「え、どうかした?」
 私の表情がどこか不自然だったのだろうか。自分なりに昨日のことには整理をつけたと思っていたが、自分が思っている以上に引きずっているのだろうか。
「いえ…ただ…裸エプロン…では…ない…のですね…。」

「「は?」」
 思わず出た声が羽塚とかぶった。
「意中の殿方に料理を作って差し上げる時は、裸エプロンが正装だと聞いていたのですが…。」
 確かにそういう説もないことではない。ただそれを本気でやるのには、なかなかの気概と言うか、恥を捨てる覚悟がいる。それに、二人きりの食卓ならともかく、客人がいる中、それを実行するのは、果てしなく常識知らずというか、痴女だ。
「あのー…入鹿さん?そんな感じの話はどこで聞いたの?」
 入鹿は少し思案した後、
「んー…主に漫画雑誌とでも言いましょうか、ああ、そうだ!地上有事部一課の曽我…」
「三橋様…っ!」
 羽塚は人差し指を口元に当て、ちらりと悟子の方に視線を送る。悟子は我関せずというように、次の缶を開けていた。私たちの視線に気づいて、ん?なに?という顔をしていた。
「ほら、悟子も一人酒は寂しいだろうし、二人とも付き合ってあげなさいよ。」
「ああ…はい、そうですね!三橋様、行きましょうか。」
「まあ、お酒ですか!御一緒します。」
 そう言って、二人は悟子の元へ行く。悟子は本当に寂しかったのか、すごくうれしそうな顔をして迎えていた。

「そうだ、入鹿さん。」

 はい?と入鹿はこちらを振り返る。

「あんまり漫画とか、人の話とか信用しない方がいいわよ…。」
「え、それはどういうことでしょうか?」
「いや、普通は裸エプロンなんてしないから…あんまりそういうの鵜呑みにしすぎるのもどうかと思うわ。」
「そうなんですかー、ありがとうございます!また間違ってることがありましたら教えてもらえたら嬉しいです。あまり世俗のことに詳しくありませんので…。」

 世俗…。神様ってやっぱり高貴な生活をしているのだろうか。しかし、天界に行く前は普通に私たちと同じように暮らしていたはずだし、一般常識を知らないってわけではないだろう。前は深窓の令嬢だったとか?確かにそれならこの物静かな性格も説明がつくような気がする。
「でも、曽我部、いえ、私の友人は実際に裸エプロンをして男の人の気を惹いたとかなんとか言ってたのですけど…。」
「訂正。その友人の痴話話は全面的に信用しない方がいいわ。」
 私たちにはレベルが高すぎる。そんな臭いを漂わせるご友人だった。


「まだぁー!?」
 と言って、食器を箸でチンチン叩いて催促をする、もうすっかり出来上がってしまっている悟子の声が聞こえる。
「もうちょっとだから待ってなさい!」
「むぅーりぃー!!」
 最後の揚げ物に入っているので、本当にもう少しなのだが、出来上がった料理の香りを目前にして、我慢が効かないのだろう。

「いただきぃー!」
 いつのまにか悟子が隣に出現した。
「羽塚!」
「了解です!」
 私の呼び声に反応して、羽塚が素早く悟子を取り押さえる。
「ちっくしょー!」

 抵抗は無駄だとわかったのか、いーじゃん、一個ぐらいと小言を言いながら、テーブルの前に行儀よく座っている入鹿に抱きつく。
「入鹿先生…。唐揚げが…食べたいです…。」
 それを入鹿はあらあらまあまあと軽くいなしていた。


「羽塚ー、御飯よそっておいてー。」
 はい、と言って羽塚は早速作業に取り掛かる。と言っても私に食事の準備を任せっきりなのに耐えられなかったのか、羽塚は客人の分の皿も出し、配膳を済ませて、あとは指示された仕事を残すのみだった。
「ほら、待たせたわね。」
 入鹿の膝の上でごろごろしている悟子を足蹴に料理を盛った皿をかざしてみせる。悟子はすぐに自分の席に正座をし、はやく、はやく置きなさいと急かす。まだ食うなよと念を押し、テーブルの中央に大皿を置き、全員が座るのを待つ。

「じゃあ…」
「いっただきまーす!!」

 私の合図も待たず、悟子は自分で食事の挨拶をし、俊敏に唐揚げに箸を伸ばし、口に入れる。出来立てで熱かったのかほふほふ言いながら、声にならない声を出している。

「はいはい、いただきまー…」
「ふ、ふつー…。」
「あん?」

 少し落ち着いたのか、悟子が私の料理に評価を下す。いやまあ、料理に自信があるわけじゃないけど、言い様ってものがあるだろうと…だいたい普通ってどんな味よ。
「そうなんですか?いただいてみますね。」
 と思ってる隙に羽塚がひょいと唐揚げを口にいれる。熱いにも関わらずもくもくと咀嚼している。自然と感想を期待し、沈黙してしまう。

「おいしいですよ。」
 とにこやかに答える羽塚。
「あ、ありがとう…。作った甲斐があったわ。んまぁ、入鹿さんも食べて食べて。」
 正直、自信がなかっただけにちょっとうれしい。自分でも食べてみたが、下味が十分染み切ってなかったのか、確かに悟子が言うように普通だった。


 食事も終り、食器を流しに運び終え、席にもどると、悟子が入鹿を襲っていた。
「こ、これにはいったいなにが詰まっているの!?」
 と入鹿の胸を鷲掴みにしていた。悟子ではないが、あの胸には、本当になにが詰まっているのだろう。服がそんなに胸を強調しないデザインなのか、今、悟子が鷲掴みにしてみてわかるボリューム感。天界の神様は化物か…。重力が地上より低く、胸が育ちやすいとかあるのだろうか。と考えてみて、同じ環境下においての悟子と私の成長度合いの違いを思い出し、絶望した。
「あぁん…あっ、おやめに…なってくださぁい…。」
 ふぅと溜息をついたところで、羽塚が視界に入った。
 女同士のある意味官能的な絡み合いに照れてか、さりげなく視線を逸らし、自分の湯呑みにお茶を注いでいた。
「私にも頂戴。」
「あ、はい、わかりました。」
 元から私の分も注ぐつもりだったのだろうか、やけに手際がいい。手早く注いで、私にどうぞ、と手渡す。湯呑みが熱くなっていたので、両手でそっと持ち、ゆっくりとすする。

「ねぇ、羽塚。」
 手持ち無沙汰そうな今が、丁度いい。
「はい?」
「昨日は悪かったわね。」
「あ、いえ。」
 ちょっとした沈黙。悟子と入鹿は騒いでいるのに、恐ろしく静かに感じる。自分でこの空気を招いておいて、自身が耐え難くなるとは、ひどい女だ。
「今日は、楽しかった?」
「え、三橋様とのおでかけですか?」
「うん。」
 羽塚は少し思案した後、いつもの笑顔で、
「はい、楽しかったです。」
 と答える。
「へぇ、そう。」
 日常会話の一端。そこに特に意味はないはずだった。
 ただ続く言葉が出てこなかった。

「ちょっとあんたら二人でなにいちゃいちゃしてんのよ!」
 どこをどう見たらいちゃいちゃしてるように見えるのかが疑問だが、明らかにいちゃいちゃしているのは、そっちの方だ。後ろから入鹿を抱きしめて、胸を揉んでいる。こいつに百合属性があるとは知らなかった。
「そーいや、あんたらどこまで関係進行してんのよ?」
 え?突然の質問に言葉が詰まる。
「やっぱりお二人はそういう関係なのですよねー?」
「いや、そういう関係じゃないと普通いっしょに住んだりしないでしょーよ。」
「その割にはお二人ともあまり触れ合いがないと思うのですが…。」
 余計なお世話よ!その一言がどうも喉から出掛かっても出てこなかった。
「そう見えるかも知れないけどきっと陰では、もぅきっと行くとこまで行っちゃってるんじゃない?」
 人の恋話には、熱くなれるのが女の性とでも言うのだろうか、次第に議論は過熱していく。
「私的には…そうね。毎日送り迎えは欠かさないし、その後、家に帰り着くとそれはもう解き放たれた獣のように…、夕飯の代わりにアナタをいただきたいわってそんな感じに、お互いを賞味し合っているに違いないわ!」
 いや、ご期待のところ悪いんだけど、ほんとそんなことはないから…。
「いえいえ、陰ながら実行しているというところにポイントがあると私は思いますね。世間様には見られないように、でも、逆にそのスリルを楽しんでいるような、すなわち、●●の●●で●●●に●●して●●してたりするんですよ!」
「うっは!燃えるっ!」
 この二人は何を言っているのだろう…。悟子はともかくとして、入鹿の方はきっと曽我部とかいうのの影響が大きすぎる気がする。というか、羽塚と…そんなこと…。

「うふふー、希望さんお顔を真っ赤にしてかっわいいー!」
 と言って、入鹿が私に抱きついてくる。うりうりと私の頬に自分の頬を押し付けてくる。
「ちょっとあんたらいい加減に…ん?」
「………」
 急に入鹿の抱きしめる力が抜けていく。ずりずりと私から身体を滑らせ、床に屑折れそうになる。それを私は寸でのところで受け止めた。人一人にしては思ったよりも軽かった。

 突然の事態に部屋全体を静寂が覆う。
「ちょ、入鹿さん?どうしたの?」
 私の問いかけに反応はない。
 その代わりに、すーっと言う上品に整った寝息が返ってきた。


「んじゃ、ばいばーい。」
 寝てる人がいるのに騒ぐのはよくないと言って、悟子は家に帰る。あいつ、私が頭痛くて寝てる時は、あんなに騒いでいたのに。
「起きません…ね。」
「とりあえず私のベッドに寝かしときましょうか。」
「では、ベッドの用意をしてきます。」
「うん、おねがいー。」
 入鹿は今、私の膝の上で横になっている。無垢な寝顔を晒して、昨日今日と私を混乱させてくれた女とは思えない。
「んふふぅー…のぞみすぁーん…」
 ぞくりと背中に悪寒が来た。夢の中で私に何をしているのだろうか、そんないやらしい想像を掻き立てられる声色の寝言だった。
「準備、できましたよ。」
「ありがと。ほら、入鹿さんー。ベッドに行くわよー。」
 トントンと叩いて、揺すってみても反応がない。
「熟睡ね…。随分とはしゃいでたみたいだったし、疲れたのかしら?」
「そうですね…。」
 羽塚が私のところまでやってきて、入鹿を抱え上げる。軽く持ち上がった入鹿は羽塚によって、隣のベッドのある部屋まで運ばれる。

「希望さん。」
 隣の部屋からの羽塚の呼びかけに私はなに?と答える。
「前に、予知のお話をしましたよね?」
 天界の人には等しく、予知の能力が備わる。その能力を使って、地上の人間の人生の中で一番の厄日を守り通す。二ヶ月前に羽塚にそう聞き、実際に守り通してもらった。
「その予知能力の大小ですが、生前の不幸の度合いによって決まります。」
 それは初耳だ。いや、依然それっぽいことを言っていた様な気がしないでもない。確か、希望さんほどの不幸ならきっと天界に転生できるとか。

「そして、神、三橋・I・入鹿様は一日先を予知することができます。」

 つまりそれって、入鹿の生前は…。

「さすがに一日というのは、天界の装置による増幅もありますが、私の予知は1分にも満たないもの。おわかりいただけるでしょうか?この能力の大きさに比例して、三橋様は生前とても不幸な人生を送られました。色々と不幸な要素はありましたが、その一因として、三橋様の目には、光が宿りませんでした。目が…見えなかったのです。」

 入鹿の一般常識が欠けている要因が見えた気がする。知らなかったこと、やってみたかったこと、そして、色々なことに興味を持つこと。それは、この地上で見るもの全てが新しくて、耳で聞いていたもの全てが愛おしくて、その身で実践できることがうれしくて。
「天界に転生されてからも、その多大な能力を重宝されるために、働き詰めで、こういう休暇をとることもほとんどありません。」
 隣の部屋から羽塚がもどる。その顔はまるで入鹿のことが自分のことであるかのように痛みを孕んだものだった。
「だから、こんなにはしゃいでおられるのも、仕方がないことで、今という時をすごく楽しんでらっしゃるのだと思います。」

 今まで、ずっと不幸だと思ってきた。でも、今は羽塚と居れて、すごく楽しい。

「お願いします。この短い期間ですけど、それだけでも三橋様と仲良くしてあげてください。」
 そう言って、羽塚は頭を下げる。

 あんた、優しすぎるのよ。

「うん、わかった。任せといて。」
 思ったことは口にはでなかった。

 私は羽塚のこの優しさが、好き。
 そうではあるのだけど、
 その優しさを自分にだけ向けて欲しいと思うのは、
 エゴなんだろうか?
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崎原 一研

エキゾチック:
外国の雰囲気・情緒のあるさま。異国的。
外国の人から見れば日本も外国。

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