スポンサーサイト

スポンサー広告
-- /-- --
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

GoodLack 01-03

GoodLack
06 /07 2010
 とりあえずドアを閉めておいたが、私はこれからどうするべきなんだろう。
 私の脇では、羽塚がなにやら喚きながらもがいているが、なにを言っているのか、全然耳に入ってこない。
 そもそも私は、なぜドアの前に立っているのだろうか。
 そもそも私は、羽塚に日記を見たか否かを、問いただしていたはず。
 早く寝室でも、居間にでも戻って、事の真相を明らかにせねばなるまい。

「くぉら!閉めてんじゃねぇ!!」

 ズバァンとドアが、勢いよく開かれた。
 そこから出てきたのは、多村悟子。私の予備校時代から、どんな縁なのか、大学から仕事場まで同じという気の知れた友人。私の不幸体質を嫌がらず、というより楽しんで受け入れる、少し変わった人物。
 そうだった。今日はこの自称、できる女と飲みに行く約束をしていたのだった。いけない、いけない、いくら取り込み中とはいえ、大事な友人を無下に閉め出すなんて、そんな友達概のないことをしてしまうところだった。

「んじゃ、とりあえずあがるわよーっと。」

 そういえば、さっき悟子が冗談みたいなことを言っていたような気がする。

「ああ、うん…。」

 そう、いつもの悟子の冗談…冗…。

「お邪魔しまーす。」

 あれ?

「妻?」

 現実?

「羽塚の妻でー…」

「違うでしょ!?」

 私の拘束が弱まっていたのか、そこから抜け出し、羽塚が前に出て、主張を始める。

「神さ…、三橋様!悪い冗談はよしてください!」

「えー…名字で呼ぶんですかー?入鹿って呼んでくださいよぅ。」

 必死な羽塚に対して、羽塚により、本名を明かされた謎の女性、三橋さんは余裕の風体だ。

「そんな…あなたのような方をそういう風には…。」

 次なる弁解を言いかけて、気が付いたように悟子の存在をちらりと確認する。
 急に視線を投げかけられた悟子は不思議そうに首をかしげたが、特に口を挟む気はないのか、それだけだった。

「ちょっとこちらでお話よろしいですか?」

 そう言って、ドアの外に三橋だか、入鹿だか呼んだ女性を羽塚は連れ出す。私はただ、見えもしないドアの向こうをじっと見つめているだけだった。

「妻ですってよ?」

 そうしていると、悟子がいつのまにか隣に来ていて、噂話をする近所の奥さんであるかのように声を潜めて私に話しかける。

「んー、らしいわね…。」

 私はというと、未だ事態を飲み込めずにいるままで、

「ちょっと知らなかったの?」

「いやぁー、もうさっぱり。」

「というか、あんた…。羽塚さんに妻がいるってことは…不倫?」

 いまいち現実味はないが、世間一般で言うところそういったところだろう。

「あー、そうね。確かにそういうことに、不倫してるってことになるわよね。よくもこの泥棒猫!ってな感じの昼ドラ的展開を期待しちゃいますよねー。」

「あんたにそんな甲斐性があるとはねー。」

「そう、私は魔性の女だったのです!なんてねー、あはは。」

「いよっ、魔性の女!あははははー。」

 二人してしばし、私の甲斐性に感心して笑った。
 あとで悟子に聞くに、その笑い声はカッサカサに乾いていたらしい。


「って不倫!?」

「違いますよ!?」

 羽塚がいつのまにか戻ってきていた。
 美女はまだドアの向こうらしく、羽塚の背後にちらりと見えた。

「えーっと…希望さん、ちょっとこちらへ。悟子さんはちょっと待っててもらえますか?」

「はいはいー。警察沙汰にならないようにねー。」

 つっかけを履き、ドアを出て、三人で向かい合う。さっきの悟子の物騒な物言いに、少し身構えたが、対面にいる美女は、人畜無害そうな微笑みを私に見せていた。羽塚はというと、眉間に手を当て、溜息をついている。

「何から言ったものでしょうか…、とりあえず自己紹介をしてもらえますか?」

 はいーと、間の抜けた感じの返事をして、少し前に出て、お辞儀をする。天然…というのだろうか、つかみ所のない人物だ。どちらかというと、私は苦手なタイプだ。

「私、極東日本支部神、三橋・I・入鹿と申します。以後お見知りおきをー。」

「えー…前に少し話をしたことがあるとは思いますが、この方が、神様です。」

「神でーす。」

 うふふと笑みを浮かべながら、手を挙げてポーズを取る。なんともかわいらしいものだ。一昔前のアイドルがかわいこぶってる感じだが、かわいいものはかわいいのが悔しいところ。

「え?神様?この人が?」

 そういえば、前に神様は20代の若い女性だと言っていたような気がする。神様と言われてみれば、確かに、美人で、高貴で、おしとやかで、神々しいオーラを纏っているような気がしないでもない。
 胸もでかいし。

「そうです。普通の人と変わらないでしょう?」

 ああ、神々しいオーラは気のせいだったようだ。
 胸の方は普通の人の私と大分異なるようだが。

「ん?神ってことは、あんた前に上司みたいなものって言ってたわよね?」

「はい、天界では一番位の高い存在になりますね。」

「社長みたいなもので、まあ、恐れ多いのよね?」

「はい、こんな風に手軽に会える方ではございません。」

「んじゃ、妻ってなに?」

 今の羽塚の態度は確かに目上の者に対する丁寧なものだ。とても夫婦のような親しい間柄には見えない。

「ああ、それですねぇー。」

 三橋さんが言った、妻という言葉の意味を羽塚もよくわかっていなかったらしく、答えあぐねていた。そこで、沈黙を破るようにパンと胸の前で手を合わせる、にこやかな三橋さん。この不倫騒動の事の真相を聞くのに、私は緊張をせざるを得なかった。

「冗談です!」

 が、その緊張はまったく無駄なものだったらしい。

「冗談ってあんた…。」

「修羅場ですよね、これ?」

「へ?」

「見てみたかったんですー。」

 うふふと笑いながら言う三橋さんは、どうやら大真面目らしい。
 羽塚は、また溜息をついているようだ。いつもこの手のことで、苦労させられているとも言っていたようないないような。たぶん、言ってないだろうが、これはそういう溜息だろう。

 結局、羽塚の妻、不倫騒動は、このお茶目でかわいらしい神様の冗談ということで決着が付いたわけだが…

「ところで、三橋さん。あなたなにしにきたの?」

 自然にこの場にいるこの女性だが、本来ならば、天界で予知の業務に追われていると聞いたが。

「これから、飲みって言うのに行きますー。」

「え?あんたも来るの?…じゃなくて、なんで地上に降りてきてんのって話よ!?」

 数ヶ月前、私の家に羽塚は現れた。その男が私のところに来た理由。それは、私の人生最大の厄日の警護のためだった。その厄日は恐ろしいもので、朝から大型トラックに弾かれそうになり、銀行強盗未遂に、巻き込まれ、高層ビルから転落しそうになったり、世間でも一大ニュースとなった、ショッピングセンター倒壊事件では、その中心地で、倒壊を迎えることとなった。どれも、羽塚がいてくれたおかげで、私は今、生きていることができている。正直、あんな生きるか死ぬかの経験二度としたくない。
 再びの天界からの来訪者は、その時のことの焼き直しかと思うと、背筋が冷たくなる。

「んー、言ったほうがよいのでしょうか…?」

「待って!心の準備をする時間を頂戴!」

 深呼吸をする。吸って、はいてを三回繰り返し、頬を軽く数度叩く。よし、前回が最大の厄日だって言っていたし、それを考慮に入れれば、なんだって来いってところだ!

「はい、どうぞ!」

「休暇です、有給が取れたのでー。」

「へぇー…」

「久しぶりに休暇が取れたんです。地上に降りて、観光でもと思いまして。」

 私は相当なドMだったらしいです。
 もっとプラス思考に生きよう、そう思いました。

「いや…まあ観光はいいとして、なんで家に来てんのよ?だいたいここらへん観光スポットじゃないわよ?」

 内心打ちのめされているのだが、そんな私のことは、捨て置く。

 観光といっても、この街はビジネス街として、発達している。先のショッピングセンター倒壊は、急な開発により、地盤が緩くなっていたことが原因で起こってしまった出来事だ。当時は地盤の脆弱性が世間で騒がれたが、今では、絶対安全と言えるエリアが割り出され、元々の交通網の発達も後押しし、元のビジネスの街として、復興を遂げた。ただ、さすがに暮らすとなっては、不安という人もいて、住宅地や、人の集まる観光、宿泊施設の増加率は大幅に減少することとなった。街として、発展していく一方で、安全とされなかったエリアでは、建物倒壊跡がそのまま放置されていたり、廃墟な風景も見られる。そこには、不法占拠者も最近で出したようで、少し物騒にもなってきている。廃墟マニアなどならともかく、とてもこんな街を観光しようなんて物好きはいないだろう。

「そんなことないですよ。それに私、特にここに来ようと思って、来たわけではないんです。私にとっては、どこでも目新しいもので、どこでも観光スポットみたいなものなので。それにこの街は、羽塚さんがいるから、少し逢引みたいなことが、できるかなーと思いまして。」

 つまりデートしたい。羽塚に会いに来た。彼と一緒ならどこでもいいの。

「え?ちょっとまっ…」

「タイムアーーーーーーップ!!」

 再び、今度は内側から勢いよく、ドアが開けられる。それといっしょに両手を広げて、飛び出してくる悟子。おい、今話し中だぞ、空気読め。

「残念ながら時間切れです。明日は休みなんだから、そろそろ行かないと、混み始めちゃうでしょ!この話の続きはお店に行ってからって言うことで。」

 そう言われ、準備してきなさいと、家の中に押し込まれる。時計を見てみれば、午後07時02分。たしかにそろそろいい時間だ。突然の悟子の乱入に、少し聞きたいことが、うやむやになってしまったが、なにも相手が逃げるわけではない。それに酒盛りの席となれば、逆に都合がいい。その席で、聞くことは全部聞き出してしまおう。

 ただ、ひとつ心配要素というか、彼女について言えることがある。
 正直に言うと、あの手のタイプ、天然系お嬢様というのだろうか、私は苦手とする部類であるのだった。
スポンサーサイト

コメント

非公開コメント

崎原 一研

エキゾチック:
外国の雰囲気・情緒のあるさま。異国的。
外国の人から見れば日本も外国。

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。