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CrossConnection 03-02

CC
08 /15 2017
「その子のことは知っているが、わからん」
 武器屋店主は腕を胸の前で組んだまま、堂々と言い放った。
「……どういう意味だよ」
「言ってる通りの意味だ」
 自信満々な態度にナインは反論する意志も失せ、
「じゃあ言ってる通りの意味として……知ってることを教えてくれ……」
 と要求をする。すると店主はバツが悪そうにぼりぼりと頬を掻き始めた。
「あー……まあ……その子はだな……」
「なに勿体ぶってんだよ……」
 ナインの半目での抗議に店主は一度咳払いをし、続きを述べる。
「その子はおまえの……」

《ドンドンドン》

 その娘の正体が明かされると言うその瞬間、乱暴に店の扉がノックされた。ナインは入り口を警戒して、ノアの手を取り、自身の元に引き寄せる。
「神殿騎士団の者だ!ドアを開けろ!」
 かけられた声にナインと店主は視線を合わせ、小声で囁き合う。
「……おまえなんかしたのか?」
 神殿騎士団の人間が来るのは意外だったが、可能性はあった。
「まあ、思い当たる節はあるな……。そもそも街の騎士団様が敵なのか味方なのかはっきりしてない」
 神殿騎士団は、トラヴィオン王都を守護することを責務とした騎士団。単に酒場前での大立ち回りの参考人として身柄を確保されるだけかもしれない。
「おい、早くしないか!」
 店主はナインの言葉を聞き、親指で頭上を示す。店主のサインにナインは頷きを返し、動きだした。
 酒場前では、騎士団の救援が得られた。しかし、それで騎士団全てがナインの味方であるとは言い難い。ゼブランスとティマは聖歌騎士団の人間だ。今来ているのは神殿騎士団。所属が違えば、指揮系統も違うはずだ。それに聖歌騎士団の元後輩二人は、偶然あの場に居合わせて独自の判断でナインを救援していたという可能性がある。
 扉を叩く音が一層大きくなった。扉を開けようとガタガタと音が響く。
 ナインはノアの手を引き、足音を潜めカウンターの隣にある階段から二階へと上がる。
 神殿騎士団の人間が、すぐに突入してこないのは、ナインが店に帰ってきた時に扉の鍵をかけていたからだ。
「はいはい!今出ますよっと!!」
 ナインは階段を上がりきる前に、店主に一つ頭を下げる。そのまま二階へと上がろうとした時、
「ちょっと待て!……ってくださいよっと!!」
 店主の言葉にナインは足を止める。言葉端は外のお客に対して取り繕ってはいたが、自分に対しての言葉だと認識した。
 店主はカウンターの引き出しを開け、ある物を取り出す。それをそのまま頭上の階段にいるナインへと放り投げた。優しくないトスにナインは階段から身を乗り出してそれを受け取る。
「これは……」
 受け取ったのは短剣。それも専用の鞘に収まった対話兵装だった。
 ナインの疑問を孕んだ視線に対して、店主は顎を軽く上げ、さっさといけと促した。
 すぐに戻ってきて、ノアのことを教えてもらう。
 そう意志を込めてナインは店主をにらみ返したが、店主はニヤリと口端に笑みを浮かべただけで扉の方へと向かう。
 普段はこんなことしねぇだろ……
 そう言いたくなる気持ちを渡された短剣を握りしめることで抑え、ナインは階段を上がった。


「こちとらもう店閉めてんだがな」
 店の扉を開け、店主は訪問者に苦言を吐く。
「ナイン、ナイン=エルハガルはいるか!?」
 訪問者は集団。先頭に立つ男が店主に怒鳴りつける。
「ナインならまだ帰ってきてねーぞ。あいつが何か?」
 店主は肩を竦めて、ついさっきあった出来事をすっとぼけて見せる。
 店主の前に立つ面々はトラヴィオン王国神殿騎士団の鎧を着込んでいる。言葉通り神殿騎士団から訪問者だった。しかし、訪問者全員がそうというわけではない。十ほどいる集団の中に見慣れぬ黒が混ざっていた。
「ナインには、要人誘拐の嫌疑がかかっている」
「へぇ……『要人』ねぇ……。それは一体どういう方で?」
「おまえが知る必要はない」
 『要人』と呼ばれるあの少女。店主にその認識は存在しない。自分の認識と合致しないあの少女。

 ―――やはり。
 店主は思う。

「中を改めさせてもらうぞ」
「へいへい。手荒にして商品を傷つけないでくれよ」
 店になだれ込む鎧の集団。店の中には所狭しと商品である武器が並べてある。それを避けながら押し入るには、着込んだ鎧と集団行動は向いていないようで神殿騎士団の面々は右往左往していた。
 まったく、我ながらひどいレイアウトだな……。
 店の商品を乱暴に押しのけて行こうにも物量が邪魔をする。店内の探索は速やかには進まないだろう。正に武器の防護柵といったところだ。
 特に二階への階段はそれが極まる。商品としての陳列を考えなくていいからと言って乱雑に押し込まれている。そんなところを器用に上り下りするナインに店主は感心を覚える。
 時間は十分か。
 二階のナインの部屋からは、窓から屋根伝いに外に出ることができる。屋根を伝って少し離れた通りに降り立てば、神殿騎士団の者に見つからずに包囲から逃れることができる。
 屋根の上故に足場が悪く、ノアが遅れずについて行けるかが難点ではあるが、夜の闇が二人の姿を隠すだろう。
 十分に勿体つけて、店の扉は開けた。
 ナイン一人であれば気にも留めないが、今はあの子もいる。まあ心ばかりのフォローはしてやろう。
「いないだと?もっとよく探せ!」
 捜索状況の報告を受けた指揮官が檄を上げる。
「なんだぁ?うちには来てないってさっき言っただろう?いい加減別のとこいってくれや」
 指揮官が店主をギロリと睨み、歩調強く歩み寄る。
「貴様ぁ!隠し盾すると王国お抱えの対話兵装技師だとしても容赦せんぞ、トフィン=ケッセルリング!!」
 剣幕激しく、吠え立てる。
「たしかな根拠でもあるんですかい?神殿騎士団副団長セルヴェインどの?」
 ナイン捕縛を命受けて来ていたのは、神殿騎士団の中でも高位に当たる人物。その者が直々に保護しにくるノアという少女。

  ―――あの子は『要人』なんて大したもんじゃねぇよ。

 店主は態度には出さないが、内心強く自分を押し殺していた。
 あの子を助けたい。あの少女を――― 過去と同じ目には合わせられない。
 挑発的な態度のまま、店主は神殿騎士団副団長を睨み返す。
 交錯は数秒を要したものの、激突には発展しなかった。神殿騎士団副団長は指揮官としての職務に戻る。
「捜索の場所を変える……。一人はここの監視に残れ!一人は戻り、あの女の指示を仰げ!」
 神殿騎士団副団長は踵を返し、
「店主、失礼をした。貴殿は王国には必要な人材だ。この度のことは平にご容赦願いたい」
 と言葉を残し、店を後にする。それに遅れて店内で捜索を行っていた団員が続く。黒外套の者も併せて引き上げて行った。


 店に一人残った店主が呟く。
「まったく……散らかしてくれやがって」
 ナインたちを捜索するため、神殿騎士団の面々は店内に並べてある商品を片っ端からひっくり返していった。まるで嵐が来て、去ったかのような惨状だ。

「さぁてねぇ……」
 店主は次の行動を想い、息をつく。
 ただそれは店の片付けの段取りを想うものではなく、ナインたちの行く末を案じてのものだった。
「うまくエスコートできているもんかね……」
 ナインならうまくやれる。それだけの技量、度量を自分の親友の子は持ち合わせている。
  ―――だが、少々曰く付きだ。
 気になるところではあるが、そこはナインの、そしてノアにとっての問題だ。
「過去を取り戻せ……、ナイン」
 二人でこれからを模索すること。
 それがノアに、ナインにとって一番良いことだと店主は想っていた。
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崎原 一研

エキゾチック:
外国の雰囲気・情緒のあるさま。異国的。
外国の人から見れば日本も外国。

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