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CrossConnection 02-09

CC
02 /03 2015
「まず最初に確認しておきたいことがある」
 食事を終え、変わらず騒がしい店の中ナインは切り出す。食事の時と、一転したナインの真剣な眼差しを感じ取ったのか、ノアは椅子の上、ナインの方へと向き直った。そして、口を開く---
「おまえはどうなりたい?」
 続け、
「おまえは『助けてほしい』と言った。どうすればおまえを助けたことになる?」
 とナインは問うた。
「私は…」
 問いにノアは思考する。数秒俯いた後、顔を上げ、
「もう一度、あの美しい光景を見たい」
 真っ直ぐにそう言い放った。
「もっと…この世界のことを知りたい」
 その言葉は確か。
「私が、見たいのは…ここに来る途中に馬車から見たもので…すごく鮮やかで…」
 ノアは言葉をたどたどしく言葉を続ける。
「それがすごく…」
 そして、自身の胸に手を当て、
「ここに、響いた」
 なんとも不器用に感情の動きを告げた。
 ノアはかつて見た光景を思い出しているのだろうか、ほぅと静かに息を吐く。
 その姿をナインは息を飲んで見つめていた。それはとても脆く、儚いもののように見えた。
 やがてノアはナインから返答がないことに気づく。説明が伝わらなかったのかと首をかしげ、やや上目遣いにナインの視線を伺い見る。
 その様子を見て、ナインは深くため息をつく。併せて、自分がノアに見とれていたことをごまかすように後ろ頭を掻いていた。
「いや…聞きたかったのはそういうんじゃないんだがな…」
 ナインの言葉にノアは一層、首を傾げる。
「おれが聞きたかったのは、おまえを捕まえようとするやつを倒してとか、どっかの国に逃がしてとか、そういうことなんだが…」
 ここではっきりさせたかったのは、目的。どこまでが自分の領分なのか確認したかったのだ。やるべきこととやらなくてよいことを線引きする。それが雇われ者としての仕事の仕方。
 依頼人に情が移ってしまうと、ついなんでも手を貸したくなる。しかし、実際にそんなことはやってられない。身体はひとつ、時間は有限なのだ。
 ナインには仕事がある。
 多くの人間に力を貸す、という自身で選択した仕事。一人に力を貸し続けることは他の人間を助けないことに繋がる。
 目的、領分を定めないこと。そんな仕事のやり方はナインは二流の極みだと思っている。定められた仕事をこなし、きっちりと報酬をもらう。それを超える分には、再度取り決めを行ってから。
「まあ、わかった」
 …そう思っていたんだがな。
「その景色とやらをおれがもう一度見せてやる」
 聞きたかった内容とは違った。しかし…、
 ---なぜだか心に落ちた。
 …どうやらおれは情に流されやすい傾向にあるらしい。
 二流の極みだなとナインは胸の中で毒づく。
「ありがとう…ナイン」
 言葉とともにノアが柔らかい表情を見せた。
 微笑みにも見える。その表情を向けられるのがどこか照れ臭くなり、ナインは視線を逸らした。
「…報酬はもらうからな!」
「報酬…代価……」
「…別に大したものは期待してねぇよ。でも、なにかしらはもらう。そこは妥協しない」
 これまでノアの身なり、様子を観察してきて、大したものが出てくるとは思えない。ただ、雇われ者としてのプライドがタダ働きを許さなかった。
「わかった…」
 依頼の目的も内容もはっきりしていない。報酬もどのくらいもらえるかわからない。
 …とんでもない依頼だな。
 ナインは何度目かわからないため息を吐く。この少女に会って振り回されてばかりだ。常識が通じない。反応も薄い。漠然としすぎている。
 それでも不思議と庇ってやりたくなる。導いてやりたくなる。
 この少女の境遇が哀れに思えるからか?放っておけないからか?
 わからない。
 ただ、胸が沸き立つ。心が惹かれる。
 そう表すのが適切だった。どうにも理由に落とせない。ならば…
 この少女に関わってみよう。
「続きだ。おまえはどういった連中から逃げ出した?ここに、この国に連れてこられたと言ったいただろう?どういった風貌をしていた?」
 話はそれからだ。このよくわからない感情もそのうち答えを見出すだろう。答えが見えずともその時はその時。
「黒い外套で身を覆っていた」
「何人ぐらいだ?知ってるやつはいたのか?」
「10人ぐらい…?馬車の中にいたからはっきりとはわからない…。外套で顔はよく見えなかったけど…一人は知ってた」
「そいつが親玉だったりするのか?」
「よくわからないけど…たぶんそうだと思う。何度か会って、話をしたことがある」
 敵の姿、規模。ノアが話したキーワードを元に情報を広げていく。
「馬車にはどのくらいの時間乗っていた?」
「わからない…。ただ、何度も夜を越した」
「気温は?出発地とこことじゃ差異はあるか?」
「気温…」
 ノアは悩んだ表情を見せたが、続ける。
「よくわからないけど……、出発する時に寒いって言ってた」
 寒いと言っていたのは、ノアをこの国に連れてきた連中か?ノア自身はそう感じなかったということか?
 ナインは腑に落ちないと思いながら、情報の整理を進める。
 移動が数日ならば、それなりの言い方をする。ある程度の日数も把握できていないとなると相当な距離を移動してきたと見える。言葉からは、北方から南下してきたように思えるが、ノアの感じ方、言い方は、そこまで寒くない地方から来たように思える。
「おまえの他に馬車で連れてこられた人間はいたか?」
 その問いにノアは首を横に振る。
 となるとこの数十日間をかけた長い行程は、ノアをトラヴィオン王国に運ぶために行われたものだということ意味する。
 わざわざノアを王国に連れてくるために多くの人間に長い日数、行程を歩ませた。
 ……このまま見過ごしているわけはないよな?
 思わず、ナインは今一度周囲の様子を窺った。より一層騒ぎが大きくなってはいたが、特に変わったところはないようだ。
「おまえは…」
 …聞くのか?
 言いかけて言うべきかと戸惑う。
 …何を迷っている?関わると決めたはずだ。
「おまえには、何がある?」
 それだけの手間をかけさせる理由がこの少女にはある。
 ノアは口を開きかけ、噤む。
 躊躇。
 そして、今一度ナインの表情を見つめ直し、意を決したように静かに口を開いた。
「私は…」
 告げようとした瞬間---
「てめぇ!なにしやがんだっ!!」
「おめぇこそふざけんじゃねぇよ!!!」
 横からの怒号でその言葉が掻き消された。
「ノア、続きを」
 酔っ払い同士の喧嘩。
 …勝手にやらせておけばいい。それよりも今のうちに聞ける情報を引き出しておく。
「わかった、ナイン。私は…」
 次の瞬間、男の身体が目の前のテーブルの上に飛んできた。大きな音を立てテーブルと男が転がる。その時にテーブルに乗っていたコップが跳ねた。
「やりやがったなぁ!」
 吹き飛ばされてきた男は負けじと立ち上がり、相手へと向かっていく。
「私は…」
 コップに入っていた水が少しノアの顔にかかっていた。
「いい、ノア」
 そんな状態の中でも話を続けようとするノアを制止してナインは立ち上がる。そのまま争う二人の方へと歩み寄る。
「おい」
 間近に立つナインの姿に気づき、二人の争いが一瞬止まる。
「引っ込んでろ!」
「邪魔すんじゃねぇよ!」
 浴びせられる怒号にナインはひるまず、
「ちょっと黙ってろ」
 と言い放った。
 その挑発するような言葉に二つの拳が飛ぶ。
 ナインは身体をずらし、それを軽く躱す。同時に男の一人の体が崩れ落ちる。
 男達の拳を躱したタイミングで一人の男の顎に拳を繰り出していた。そのままもう一人へと迫り、足を払う。後ろに倒れた男の襟元を掴み、絞めた。時機に苦しそうしていた男が大人しくなる。
 一瞬のうちに場を制圧した。
 その光景に酒場の客は息を呑み、次の瞬間歓声をあげた。
「さすがナイン!やるじゃねぇか!」
「あざやかだねぇ!惚れちまうわぁ!」
 歓声をよそに店のカウンターの方へと行き、顔なじみのマスターに声をかける。
「すまねぇ、マスター。騒がしくした」
「いいってもんよ。おまえのおかげで被害も最小限だ」
 後の処理は頼むとマスターに断り、ナインは元いた席へと戻る。
 ナインをノアは佇んで迎えた。
「ナイン、つよい」
「このくらいなら簡単なもんさ」
 迎えたノアの顔をマスターから借りたタオルで拭ってやる。されるがままにノアは佇んでいた。
「つよい…けど」
 言いよどむ。その所作を珍しく思い、尋ねる。
「どうした?」
「アビスには、気を付けて…」
「ん?おまえを連れてきたやつか?わかった、覚えておく」
 まっすぐに見据えるノアの心配そうな視線が印象に残った。

「せーのっ…」
 二人でテーブルを起こし、場を復帰する。食器は木製で特に処理は必要なかった。再び席につこうとしたその時だった。
 店のドアが開く。
「クソめんどくせぇ…」
 ---黒い外套を着た男が店の入り口に立っていた。
 その疑うべくもない特徴にナインは気づき、ノアを背後に隠そうと動く。しかし、
 ---視線が合う。
 黒衣の男は最初からこちらを見ていたのだ。
「手間かけさせんじゃねぇよ…。クソ実験体が…」
 男は腰から剣を抜き放つ。
 切っ先は真っ直ぐにノアの方へ向けられており、そして…。
 その刀身には、紅の輝石が埋め込まれていた。
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崎原 一研

エキゾチック:
外国の雰囲気・情緒のあるさま。異国的。
外国の人から見れば日本も外国。

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