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CrossConnection 01-06

CC
12 /15 2013
 ティマ達と別れ、ナインはアイアンフェローへと戻っていた。
「ただいま」
 店の中へと帰宅の挨拶を投げかけるもあるべきはずの返答がない。
 おやっさんは工房か。
 時刻は日が落ちる一刻ほど前。この時間には店にいることが多い。工房に籠っているのは珍しい。
 そう思いながら、ナインはカウンターの椅子に座る。
 さて、どうする?
 背もたれに寄りかかり、天井を仰ぎ見る。
 ナインは迷っていた。
 
 アレクシアに最後に会ったのは、騎士団を抜けた時。その時アレクシアに、ナインは問い詰められ、罵倒された。「何故騎士団を辞める?」、「負傷をして怖気づいたのか!?」と。
 アレクシアは叫び、掴み掛り激情を顕わにした。対しナインは、
 ---何も答えなかった。何も言えなかった。
 その時から、今日まで幾度となく呼び出しを受けていた。
 だが、その悉くをナインは無視してきた。
 呼び出しを無視することに心が痛まないことはない。アレクシアのこと、待ち合わせをするとなると約束の時間が終わる時刻まで、その場居続けることも容易に想像できた。
 ---それでもナインは呼び出しには応じなかった。
 最初は頻繁に誘いを出していたアレクシアであったが、騎士団の仕事が忙しくなり、聖歌騎士団のシンボルとして祭り上げられ始め、その頻度は落ちていった。加え、ナインの仕事が軌道に乗り、多忙になっているとアレクシアは人伝に聞いていた。誘いを出しづらくもなっていたのだ。

 今回の呼び出しは、実に三ヵ月ぶりとなる。
 騎士団を抜けた頃と比べ、アレクシアに会わないという頑なさは幾分か減っていた。会ってもいいとさえ思えている。喧嘩別れをしたような状況に思うところもある。一度会って話をつけるいい機会である。ただ…
 どの面下げて会いにいきゃいいんだよ…。
 ナインは頭を抱える。
 ナインが騎士団を抜けた理由。それをアレクシアに説明できる自信はない。
 対話兵装を使うことで聞こえる『声』。そんな実態のないものに恐怖を抱き、対話兵装と対峙することを恐れ騎士団を抜けたことをどう説明すればいいのか。
 その『声』のことをアレクシアに説明したとしても、「声など聞こえない」「そんなものを恐れるな」と一蹴されるだろう。
 そもそも、騎士として、自らを粉にして人のため、家のために全霊を尽くすアレクシアと、そこまでの決意を持たず、その日を生きるために騎士として戦っていたナインと。前提として、ナインとアレクシアの騎士の価値観が交わってはいなかったのだ。
 ナインは悩み、頭を抱えていた。

「おう、帰ってたのか?」
 店の奥の工房につながる扉から店の主が出てくる。
「ああ、ただいま…。パン、買ってきたぞ」
「それはありがてぇ!お仕事お疲れ!」
 店主は機嫌よく、ナインへと労いの言葉をかける。そのまま店の隅に置いてある樽へと向かい、鉄製の椀を手に取り、水を掬い豪快に飲み干す。もう一度椀に水を掬い、カウンター台に置いてあるパンへと腕を伸ばす。
「ん?冷えちまってるじゃねぇか!てめぇ、どっか寄り道してきやがったな!」
 パンを頬張り、期待にそぐわないものであった苦情をナインへと投げかける。
「ああ…ちょっとな…」
 ナインは頭を抱えたまま、心ここにあらずといったように店主に言葉を返す。
「ちょっとって、おめぇ…理由ぐらいあるだろう」
 ナインからの返答はない。考え事をするように膝に肘を立て、前にからめた自身の手を焦点の合わない瞳で見つめていた。
「そうだ…おやっさん。何か依頼は来ていないか?」
 視線を下に向けたまま、ナインは店主に尋ねる。
「工房に行ってた間はわからんが、声はかかっとらんぞ」
「…そうか」
 店主の答えに呟きを返し、ナインは両手で頭を抱える。
「いや待てよ」
 何かあるのかとナインは頭を上げた。
「そういやティマちゃんが来てたんだ。おまえの居場所を聞かれたんで、レドラのパン屋にいると教えたんだが、会えたか?」
「ああ…」
 再び頭を抱える。
「なんか言伝があったみたいだが、なんだったんだ?」
 今、正にそのことで悩んでいるのだ。
「そうだな…」
 要領を得ない返事を返すナインに店主は苛立ちを感じた。
 手に持つ鉄椀を店主はナインの頭上に掲げる。そこには水が入ったまま。
 そのまま鉄腕を傾ける。俯いたナインはその行動に気づく様子はない。
 椀から水が零れ落ちる。遮るものもなく、水流はナインの頭に到達した。
 どばどばと鉄の椀から水が流れ切りやっと、ナインは顔を上げる。
 上から見下ろす店主の顔を見据え---
「てめぇ、なにしやがる!」
「おめぇが無視ぶっこいてやがるからだろうがぁ!」
 ナインは立ち上がり、店主へと食って掛かった。
「別に無視はしてねぇだろ!」
 対し、店主は腕を組み、迎撃の体制。
「ああん?なに悩んでるか知らねぇが辛気くせぇんだよ!売り物の剣が錆びちまうだろうがよ!」
 店主とナインの睨み合いが始まろうとしていた。---その時。

 開け放たれたドアよりコンコンと軽い音が響く。
「取り込み中に申し訳ありませんが、お邪魔しますよ」
 声と共に姿を現したのは、かつて、ナインの教官を務めていた人物だった。
「よう、久しぶりじゃねーか。スパーソン」
「おやっさん、お久しぶりです。いや、久しぶりですっけ?」
 挨拶の違和感にスパーソンは首を傾げる。
「言われてみれば、三日ぐらい前に酒場であった気がするな」
「ああ、そうでした。アイアンフェローで会うのは久しぶりですね」
 先程まで言い争っていたナインを差し置き、店主とスパーソンは陽気に笑いあう。
「まったく通いこみやがって!おまえにリアちゃんは十年はえーよ」
「おやっさんぐらいの歳まで待てってことですか?リアちゃんがそんなおっさん趣味だと思いたくないなぁ」
「こいつ、ぬかしやがって!」
 挨拶代わりの酒場の看板娘の話が一通り済み、スパーソンはナインの方へ顔を向ける。

 ナインが騎士団を辞めた後、スパーソンは何かと世話を焼いてくれた。町の人々との付き合い方、仕事の斡旋。便利屋としての雑用から本業の仕事まで紹介してくれた。
「やあ、ナインくん」
「ご無沙汰してます、教官」
 ナインにとって、店主と同等の頭が上がらない存在。
 スパーソンはナインに笑みを見せ、再度店主へと視線を向ける。
「おやっさん、ちょっとナインくん借りて行っていいですか?」
「ああ、好きにしろよ。ここに置いとくと店の商品がダメになっちまう」
 店主は二つ返事で返す。だが、
「教官!おれは…!」
 ナインはその言葉に従えない。
 約束がある。
「大丈夫」
 その様子を見て、スパーソンは笑って見せる。
「時間は取らせないよ」

  ◇
 二人は店を出て、当てもなく街路を歩く。
「行くのかい?」
 前を歩くスパーソンから唐突に声がかかる。
「何にですか?」
 ナインはスパーソンの質問の意図がわかっていた。しかし、咄嗟にわからないふりをする。それをスパーソンは軽く笑い、
「はは、照れなくていいよ。呼ばれてるんでしょ?アレクシアちゃんに」
 ナインは意味のないことだと知る。溜息をつき、つぶやくように言葉を出す。
「…正直、悩んでいます」
 スパーソンは歩みを止め、ナインの方を振り返る。
「今日はね、お節介を焼きに来たんだ」
 その言葉を告げ、再びスパーソンは前を向き、歩き始める。
「君はアレクシアちゃんのことが好きかい?」
「えっ」
 質問にナインは狼狽し、足を止める。前を歩く、スパーソンとの距離が開くが、小走りですぐに距離を詰める。それを様子を見ていたのかというタイミングでスパーソンは話を続ける。
「異性としてでも、元同僚としてでもどっちでもいいさ。どうなんだい?」
「あ、はい…。…好きです、…友人として」
 ナインは口ごもりながら答える。正直、自身の気持ちがわかっていないというのが本当だ。
「アレクシアちゃんは君のことが好きなんだと思うな。異性として」
 共に聖歌騎士団として、訓練を受け、戦場をかけた。背中を預けあった関係。そんなアレクシアがナインに好意を抱いている。
「ただ彼女自身、自分の感情を理解していない。しかし、どうでもいい相手にこんなに熱心なアプローチはかけないものさ」
 スパーソンの背後でナインは頭を抱える。
「気づいてたよね?」
 問いかけにナインは、「はい」と肯定の返事を返した。
「あいつはなんでおれなんかを…」
「さあ?僕にはわからないなぁ」
 はははとスパーソンは陽気に笑って見せる。
「まあ僕はそんな乙女なアレクシアちゃんがかわいそうだなと思ってさ」
 ナインは沈黙する。これまで幾度とアレクシアの誘いを断ってきた。その度に胸が痛んだ。ただ、
「おれは騎士団にはもどりません」
 会えば、アレクシアはナインに騎士団に戻れと言うだろう。無理矢理にでも、力でねじ伏せてでも。
「怖いんです…。あの『声』を聞くのが…」
 ナインの言葉にスパーソンは足を止める。いつのまにか商業区の中心広場まで来ていた。広場の中央にある噴水の飛沫が、落ちかけた斜めからの陽を反射し、紅に昏く染まっている。
「『声』が聞こえると言っていたね…」
 騎士団を抜ける時、スパーソンにだけはその理由を伝えた。
 対話兵装と対峙する際に聞こえる激情の奔流。どろどろと纏わりつき、精神を蝕む『声』。その『声』を聞きたくないとナインは伝えた。
「僕はその『声』に飲まれる人達を幾度となく見てきた。だから君の退団も認めてもらえるよう口添えをしたんだ。あの『声』の感覚は経験した人間にしかわからない」
 スパーソンは、だからと前置きし、
「たしかにアレクシアちゃんには伝わらないだろうね」
 ポケットから煙草を取り出し、火を点ける。
「それでも君はアレクシアちゃんに伝えるべきだよ」
 口に含んだ煙を吐き、スパーソンは言う。
「それにだ。前はただ逃げ出すだけだったかもしれないが、今の君にはやるべきことができたんでしょ?それを伝えればいいだけさ」
 騎士団から逃げ出し、始めた仕事。
 騎士団を抜けたばかりのナインが他にできることがなく、仕方なしに始めた仕事だった。それが今ではやりがいを感じるようになっていた。
「そして、今度はアレクシアちゃんの『声』を聞くんだ」
 スパーソンは顔だけナインの方へと振り返る。
「それが彼女を惚れさせた君の責任だよ」
 表情は笑顔だった。ただナインにはそれがどこか寂しげな表情にも見えた。

  ◇
「若いっていいねぇ…」
 吸い終えた煙草を持参の銀の容器でつぶしながら、スパーソンは一人呟く。その背後にナインの姿はない。
 スパーソンは次の煙草を取り出し、火を点ける。
 顔を夕暮れの空へと向け、吸い込んだ煙を吐き出す。
「アリサ…」
 ---呟く名前は今は亡き女性の名。
 聖歌騎士団が実験部隊であった頃の同僚。
 数秒の間、空を仰ぎ、
「さてと」
 スパーソンは再び煙草を咥える。
「それじゃあ、リアちゃんに会いに行こうかな」
 そう言って、ゆっくりと酒場の方へ歩み始めた。

  ◇
 ナインは走っていた。
 待ち合わせの時間に間に合わせるためというのもあるが、ただ単に勢いが欲しかったという理由もある。城門を出て、トラヴィオンから南西部に位置する小高い丘へと走る。その丘は沈む夕焼けを綺麗に見ることができる場所ではあるが、壁外であるため、待ち合わせの場所に使う人間は少ない。
 ナインは走る足を止める。---到着した。
 橙蹟の丘。その淵に彼女は佇んでいた。
 夕陽の方を向くアレクシアにナインは歩み、近づく。
 赤い陽光によって、表情は窺い知ることができない。金の髪は赤く染め上げられ、いつもとは違う雰囲気を纏わせていた。
「---アレクシア」
 ナインの呼びかけにアレクシアは静かに振り返る。
 丘を囲むススキが風に煽られ、さわさわと音を鳴らす。
 赤の陽光を背にしているため、その姿もシルエットのような輪郭でしか見えない。
 アレクシアは何も言葉を発さず、腰の剣のグリップに手を当て、ナインの方へと駆け出す。
 そして、そのまま---
 アレクシアはナインの胴部へと剣を繰り出した。
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崎原 一研

エキゾチック:
外国の雰囲気・情緒のあるさま。異国的。
外国の人から見れば日本も外国。

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