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CrossConnection 01-05

CC
09 /01 2013
 聖歌騎士団寄宿舎。そこで身支度を整える人物がいる。
 その者の名はアレクシア=セプトウェイン。
 若いながら聖歌騎士団の精鋭として名を馳せる騎士であり、かつて勇名を轟かせたセプトウェイン家の令嬢でもある。
 つい先ほどまで行われていた王族、騎士団幹部を中心とした式典から戻って早々に身支度を開始していた。
 身に纏う白の鎧を外し、その下に着用していたきつめの式典服から身体を開放し、下着のみの姿になる。脱いだ服を乱雑にベッドの上に投げ出したまま、アレクシアはクローゼットと対面し、その戸を開く。
 アレクシアは街の人々にかなり顔を知られている。これから街に出るのに、街の雰囲気に溶け込めるよう地味な衣服を選ばなければならない。はずなのだが---
 金髪の令嬢はなるべく繊細で趣向の凝らされた装飾のついたものを引っ張り出す。厳密に選び抜いた色合い自体は地味である衣服を着用しようという時、アレクシアはクローゼットの鏡に映る自身の姿を見て、ふとあることを思いつく。
 しばらくの間、思考を巡らせた後、背中に手を回し、胸を締め付けていた布を緩める。
 こうすることでいつも強く締め付けられ、圧迫されていた胸が本来の主張を取り戻し、一回り大きく見えるようになるのだ。
 胸布を緩め、再度鏡を見る。しばし自身の姿を眺め、金髪の令嬢は唐突に顔を赤くした。
 自分が何を考えて、胸の大きさなどの見た目にこだわっているのか。それをできる限り考えないように、手早く前部のボタンを留め、ズボンに足を通し、身なりを整えた。
 最後に愛用の黄の輝石を埋めた剣を腰に携え、出立とする。
 とその前に…。
 今一度、金髪の令嬢はクローゼットの鏡で自身の身なりを確かめるのだった。

 宿舎の廊下を往きながら、アレクシアは自身の胸が高鳴っているのを感じていた。
 式典パレードの時、たまたま視線を向けた先に彼がいた。お互いの姿がはっきりわからないような距離を隔てていたにも関わらず、偶然にも彼を見つけ、瞳が合ったのだ。
 交錯は一瞬だった。それでもアレクシアはナインのことを強く意識してしまった。
 後半の式典にも出席しなければならない彼女は後輩であるティマに依頼をする。
 ---ナインを呼び出す。
 後輩を使い走りにしてしまうとは分別のない真似をしてしまったな…。
 胸にあるのは後悔、そして焦燥。
 先輩と後輩の騎士団の間柄をプライベートでも利用してしまったのは恥ずべき行為。それを理解していながらもティマに依頼をしてしまったのは、抑えきれないぬ感情故の行為だった。

 玄関から外に出て、空を仰ぎ見る。日は未だ高く、約束の場所、『橙蹟の丘』に行くのにはまだ早い。普通ならば、時間までどこかでつぶすものだろう。
 だが、この金髪の令嬢の考えは違った。
 呼び出すのは自分。待ち合わせ場所で先に待っておくのは礼儀。
 愚直なまでの律儀さをこの金髪の令嬢は持っているのだ。これから約束の場へと向かったとして、その待ち時間は時間単位で数えられるだろう。
 ナインが約束の場へと来ないのではないかという懸念もある。
 ティマがナインへの使いを果たせないということ。ナインは仕事柄色々なところに移動する。ティマがナインに接触できないというのは多分にある可能性だ。
 それに、ティマの言伝を聞いてナインが待ち合わせの場所に来るという保証はない。---むしろ来ない可能性の方が高い。
 事実、これまでにもアレクシアは数回に渡って、ナインを呼び出していた。だが、いずれ呼びかけに対してもナインは待ち合わせの場所に姿を表すことはなかった。
 それでも愚直な女騎士は、約束の場へと足を向けていた。
 予感があった。
 根拠など何もない。
 式典の空気にあてられ、柄にもなく高揚しているのか。偶然ナインと視線を交わしたことでなにかを感じ取ったのか。
 ---いつもとは違う。
 
「おでかけかい?アレクシアちゃん」
 宿舎を出て敷地内から出る間もなく、意識の外から声がかかる。
 軽口の割に落ち着いた低い声。アレクシアが声の方へ視線を向けると先程まで自身も纏っていた白の鎧を身につけた細身の中年男性が軽く笑みを見せ、ひらひらと手を振っていた。
「ちゃん付けはやめてください。スパーソン教官」
 その姿を認め、アレクシアは歩を止め、溜息を吐く。
「いやーごめんごめん。そんなに睨まないでよ。あんまり堅苦しい呼び方って僕嫌いなんだよね。それに親子ぐらいに歳も離れちゃってるし、このぐらいが丁度いいかなって」
 吸っていた煙草をポケットから取り出した銀の容器で押しつぶし、スパーソンはアレクシアにゆっくりとした歩調で歩み寄る。
「年齢が離れているからと言って承諾しかねます。私たちは騎士です。立場に見合った礼節と行動を心掛けてください。…ましてやあなたは後発の騎士を指導する立場なんですよ。」
 スパーソンは先程アレクシアに呼ばれた通り、聖歌騎士団の新人騎士を指導する教官としての役目を請け負っている。アレクシアも聖歌騎士団に入団した五年前から三年の間、スパーソンに指導を受けていた。
「ははは、あんまり堅いこと言わないでよ。元々騎士とか教官とか向いてないんだよ。候補が少なかったから僕みたいなのがやらざるを得ない状況だったわけで、対話兵装を使いこなせる人が増え始めた今ならそろそろ僕もお役御免になるんじゃないかな」
 聖歌騎士団は対話兵装という特殊な武器を使う。
 見た目はただの剣や槍などの武具と変わらない。一つ違うのは、その刀身に特性の異なる輝石が埋まっていることだ。この輝石を媒介とし、使用者はアストラル界と接続し、その力を引き出す。
 アストラル界との接続。
 その特殊な用途故に対話兵装は特殊な素養を持ったものしか扱うことができない。故に使用方法、力の引き出し方はごく限られた人間しか知りえないのだ。
 トラヴィオン王国で実験的に対話兵装を使用し始めた最初の部隊。名前もないその実験部隊に、かつてスパーソンは所属していた。
 対話兵装の研究と試験的戦闘。強大な力を秘めた輝石の兵器への転用。その未知の力を制御できれば、王国は強大な力を得ることができる。しかし制御を誤れば、たちまち使用者に牙を剥く。この危険な実験のために集められたのは、騎士団の中でも個性の強い爪弾き者達。言い換えると騎士団の和を乱し、必要とされない者達だった。犠牲を考慮に入れ、対話兵装の使用方法の確立という命題を持った実験部隊は結成された。
 多くの苦難を乗り越え、対話兵装の使用方法も確立されるという時、ガイアス帝国による対話兵装を用いた攻撃が始まった。
 帝国の対話兵装は圧倒的だった。あらゆる対抗手段が灰塵と帰す中、スポットを当てられたのは、スパーソンの所属する対話兵装実験部隊。そこで部隊の者たちは二つに分けられる。戦場へと駆り出される者。そして、増強が行われることとなった部隊の後進を指導する者。
 対話兵装実験部隊は名称を『聖歌騎士団』に改め、強大な力を持つ対話兵装の使用を第一とし、その兵装を使用できる素養を持つ者を中心として、団員を増強した。素養はあれど、対話兵装はこれまで広く用いられて来なかった未知の兵装。その扱い方を教えられる人物が必要だった。それに加え、戦闘経験も度外視で対話兵装を扱える者に絞って、人員を集めたため基本的な戦闘技術も教える必要があった。
 その指導役にスパーソンが着任することになった。
 スパーソンは対話兵装の扱いに関しては一級であったが、人にものを教える指導能力、教え子の面倒を見る勤勉さが高いとは言い難い人物。ただ「候補が少なかった」と言う言葉通り、元々実験部隊には個性の強い面々が集められている。その面々の中で面倒見が割合ましだったという理由で、スパーソンは聖歌騎士団の指導役に抜擢されているのだ。
「式典も終わって早々にめかしこんじゃって、誰かと会うのかい?そうだなぁ…もしかしてナインくんとか?」
 これからの予定、そして会う人物を教官により言い当てられ、アレクシアは驚きで目を見開く。
「え、図星だったの?はは、しかし、君もナインくんのことが好きだねぇ」
「別に好きじゃありません!」
 顔を真っ赤にしての反論。そのわかりやすい反応にスパーソンは「わかってるさ」と笑いながらなだめる。
「あいつは力を持ちながらそれを広く役立てようとしない。私はそれが許せないだけです…」
 スパーソンは顎の無精髭を触りながら、二度、三度頷く。
「だから、ナインくんに聖歌騎士団に戻って来いと説得に行くと…」
 力を持つ者の責務。
 アレクシアは元々名家の出。下々の民を守るという意識が強くある。それ故に力を持ちながら、気まぐれに振るうだけのナインに苛立ちを持つ。確かに納得できる理由でもあるが---
 まあ間違いなくそれだけじゃないよね…
 スパーソンは思ったことを口から出すのを堪える。
 言葉に出してもどうせ否定されるだけだし、本当の気持ちはアレクシア自身がきちんと理解して、素直にならなければきちんと伝わることはないだろう。
 アレクシアの言い分もその裏に隠されている気持ちも把握している。
 難儀なものだな…、アレクシアも…ナインも。
「特に用がないなら私は行きます」
「ああ、呼び止めて悪かったね」
 なかなか紡がれない次の言葉に痺れを切らし、アレクシアは本来の目的に戻ることにする。スパーソンに一礼をし、背を向ける。
「アレクシアちゃん」
「だからちゃん付けはやめてくださいと…」
 スパーソンの再度の呼びかけにアレクシアは振り返る。
 しかし、そこには教官の雑談の時の柔らかい笑みはなく、アレクシアは途中で言葉を止めた。
「彼は声が聞こえると言っていた」
 これまで幾度も見てきた真剣な話をする時の教官。
「ナインくんが騎士団をやめるときに言った言葉さ」
「声、ですか…?」
「感じたことがあるだろう?アストラル界から力を引き出す時に感じる繋がりを」
 対話兵装を使用する時に感じる繋がり。その繋がりが強いほど対話兵装を自在に扱えるようになる。
「対話兵装を使うとき僕たちは強い意志をぶつける。その行為が云わば『交渉』。それで僕たちはアストラルの力を自身の物として振るう。そう、僕らは『交渉』により力を得ているんだ」
 当然、アレクシアも聖歌騎士団の一員として対話兵装を使う。しかし、これまで対話兵装を使う際に交渉をしているという感覚を持ったことがない。
 だが、話には聞いたこと、それに見たことがある。目の前の教官に教えられ、戦ってきた帝国の対話者も行っていた。
「そして、この『交渉』により心を病んだ者を僕は幾人も見てきた」
 対話兵装により、現実とアストラル界の境目を見失い、心の在処を見失う。
 その加減を見極めることをできずにあちら側に堕ちてしまう者たち。実験部隊であった頃、スパーソンはそう言った者たちを多く見てきた。
「対話兵装は危うさを持った確証のない兵器さ。だから…ナインくんの言い分も少しは加味してやってほしい」
 スパーソンの忠告にアレクシアは沈黙を返した。
 そして、スパーソンはアレクシアからの答えを待たず、「いいね?」とアレクシアに笑顔を見せ、その場からゆっくりとした歩調で去って行った。

 スパーソンとの邂逅の後、約束の場所、橙蹟の丘へとアレクシアは向かっていた。
 聞かされていない。
 ナインはアレクシアに何も言わずに騎士団を辞めていった。
 歩調を速めながら、アレクシアは拳を硬く握りしめる。
 わかっている。わかっていた。
 あいつが何か悩みを抱えていたことぐらい。ただ戦場に怖気づいただけではないことぐらい。
 来るだろうか。
 ---来てほしい。
 これまで何度も約束を不意にされてきた。それでも---
 私はあいつと会いたい。話をする機会がほしい。
 私は待つ。会って確かめる。
 そして、できるなら…
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崎原 一研

エキゾチック:
外国の雰囲気・情緒のあるさま。異国的。
外国の人から見れば日本も外国。

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