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CrossConnection 01-03

CC
06 /16 2013
   ◇
 屋根の修理がひと段落し、ナインは屋根の上にそのまま腰掛ける。
 依頼内容は専門家に頼む程ではない簡単な雨漏りの修理。このような軽い雑用程度ならば持ち前の器用さと身軽さでこなすことができる。それにナインには経験がある。本業の依頼の合間に軽い副業のつもりで請け負い始めた仕事だったが、それが思いの外評判がよく、今では街に広まり、副業の依頼の方が本業の依頼を上回る始末。ちょっとした痒いところに手が出ない問題というのはかなり街に溢れていたらしい。
 再三、雑用のような依頼は受けないとは公言しているのだが、本業の依頼が多くないということと、おやっさんの意向から仕方なしに請け負うことになり、意図しない経験値を積むことになっていた。
「よう、ナイン今日は大工か!器用なもんだね」
「今度家の屋根もよろしくね!」
 そういった事情を知ってかしらいでか、パン屋の客から屋根の上へと投げかけられる言葉は冷やかしが多い。しかし、その頻度から街においてのナインの知名度、顔の広さも窺えた。
「うるせぇ!便利屋じゃねぇっつってんだろ!」
 ナインはかけられる声に対し、適当な相槌を返す。
 それにしてもなにやら街に浮ついた雰囲気がある。いつもよりも声をかけられる量が多い。それにこのパン屋にくるまで間、すれ違った人々の表情もいつもより楽し気だった。
 何か祭事でもやっていたか?
 ナインはそれを確認しようと屋根を上がる。屋根のてっぺんに立ち、辺りを見回す。
 このパン屋はこの下町の中でも一回り高い建物になっている。貴族街区と工業区と別の区画は壁に阻まれ、完全に視界からシャットアウトされてはいるが、商業区である「下町」と呼ばれる区画はある程度見渡すことのできる。
 所々視界を遮蔽する建物が存在するが、ナインは視界に人の流れをとらえる。どうやら、その流れは街の中心、トラヴィオン城の方へと向かっているようだ。正確にはトラヴィオン城へと通ずる中央路である。
 そこでナインは思い出す。
「騎士団凱旋パレードか」
 ガイアス帝国との停戦調停から半年が経つ。それを記念しての式典。
 昨晩の仕事はこのパレードに関わることだと聞かされていた気がする。あまりに退屈な仕事内容で忘れていた。
 中央路では三つの騎士団がそれぞれ列を連ねていた。各騎士団の主要人物を中心列に据え、それを挟むように縦列を形成する。一糸乱れぬ行進を見せるその姿は練度の高さが伺え、壮観と言えた。
「ご苦労なことだな」
 ナインは呆れ、言葉をつく。
 この式典は華やかな見た目である反面、別の意味も持つ。
 トラヴィオン王国とガイアス帝国、大陸二大国による大きな戦いが収束し、半年が経つのだ。人々の中には軍備を縮小すべきではという声が出始めている。実際には他国への牽制や万が一の調停解除に備えのため、すぐに軍備を縮小することなどはできない。しかし、戦力を維持するのに民衆への負担が存在する。牽制や備えなどと言われても実際に戦わない騎士団に民衆の不満は蓄積される。
 その不満を抑えるためのプロパガンダという側面でこの「騎士団凱旋パレード」が行われる。云わば国民の人気取りだ。
 パレードには王国内で人気ある騎士団が列席している。
 トラヴィオン王家第一子、ラインデル=トラヴィオンが率いる王立騎士団を中心に、王都の守護を使命とする神殿騎士団を先頭、そして先のガイアス帝国との戦いを停戦へと導く戦果を挙げた聖歌騎士団。民衆より支持の高い三騎士団による凱旋パレードということだ。
 その中でも民衆の声援を一身に集めているのは第一王子であるラインデル。パレードを見に来ている人々に手を振り、愛想の良い笑顔を振りまく。だが決して媚びているわけではなく、高貴さを感じさせる。
 最初にナインの目についたのはこの第一王子。王子という立場でありながら最前線にて兵を率いる強者である。その在り方から、民衆からも兵からも人気が高い。
「本当に完璧な人間ってのはいるもんだな…」
 ナインは嘆息する。だが、あまりに高みいる人物故に自分と比べる気も起きない。王族と一国民。住む世界が違いすぎる。
 それからナインはある人物を探す。
 その人物はすぐに見つかった。
 王立騎士団の後ろ、聖歌騎士団の中心を征く人物。
 金を尾引く流麗さを持つ女性。
 秀麗でありながら鋭さを持つ佇まい、更に白を基調とした鎧がその女騎士の持つ気高さを引き立たせていた。
「こういう時ぐらいもう少し愛想よくしろよな…ったく」
 ラインデルとは違い、民衆からの歓声に会釈を返すこともせず、ひたすら行進をこなす。その凛々しさこそ彼女の魅力と言えるのだろうが、あまりに真面目すぎる。今回のような民衆に身近で華やかな場ではもう少し歓声に答えるように振る舞うものだろう。
「一年前からまったく変わらないな…」
 ナインはその女騎士の振る舞いに対し、心配をしている自分に気づく。そして、
 おれは何を偉そうに…
 自己嫌悪にも似た感情を胸に抱く。
 おれとあいつにはもう関係なんてないんだ。
 そう自分に言い聞かせ、ナインはパレードに背を向ける。
 その直後。
 ナインは視線を感じ、パレードを行っている通りを再度振り返る。
 ---目が合った。
 パレードを行っている中央路とナインのいる家屋の屋根までは遠く離れている。
 それでも、目が合ったと直感した。
 人の垣根を越え、距離を物ともせず、真っ直ぐに女騎士はナインを見据えていた。
 ---時間にして数秒も待たず、その交錯は途切れる。
 女騎士は何事もなかったかのように視線を進路に戻し、自分の役目へと戻り、ナインは、
「…そろそろ仕事に戻るか」
 その視線から逃れるように、顔を背けていた。
 今の自分は騎士ではない。
 ナインは現在の自身の役目へと戻るのだった。
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崎原 一研

エキゾチック:
外国の雰囲気・情緒のあるさま。異国的。
外国の人から見れば日本も外国。

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