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CrossConnection 02-06

CC
09 /30 2014
 夜の街、建物の合間を縫うように移動する二つの影。人目に付かぬよう、足音を忍ばせ、まだ見ぬ敵を警戒する。
 逃げてきた少女。どのような状況で抜け出してきたのかわからない。少女を探す者の姿をナインは未だ補足できてはいない。
 この少女はどのような存在なのか?ナインは握った手の先の少女の姿を見る。
 姿を隠す外套と呼ぶには粗末な布を羽織った下には、肌に張り付くような繊維の服を纏う。その服から除く肌の面積は少なく、首枷も相まってどこか拘束されているような印象を受ける。
 奴隷じゃない…よな?
 少々特殊な格好にナインは疑問を浮かべる。そして、特に目を引くのが、
 ---胸部中心に存在する大きな突起。
 服に付属した飾りというよりも装置のようなものが存在する。それは何かを保護するためのものなのか、何かを集積するためのものなのか、目的は定かではない。
 不可解な点が多い恰好。加え、ナインは気づく。
「おまえ靴は?」
「…ない」
 ナインの問いかけにノアは表情一つ変えずに答える。まるで、何か問題でもあるのかと言わんばかりの返答にナインは再び頭を抱えかける。
「少し見せてみろ」
 建物の影に入り、ノアを座らせる。暗い路地の中、遠くで燃える街灯の灯りを頼りに目を凝らし、ナインはノアの足に手で触れ具合を診る。
 貴族街区、この周辺の路地は整備がいきとおっており、一面が石畳で覆われている。少しの突起物でも落ちていればたちまちに足の裏を傷つける。触れるノアの足裏はナインが想像していた以上に傷だらけになっていた。
 …この状態で何も言わずについてきていたのか。
 どこからか足を傷つけながら抜け出してきて、どこともしれない路地裏で、追手が来るかもしれないという恐怖を抱えながら一人で逃げてきた。感情が疎いところがあるが、この少女も必死であるのが伝わる。
「ほら」
 ナインは屈み、おぶってやるというジェスチャーをノアに見せる。
 このまま連れ回すわけにもいかないよな…。
 そう思い、背を向け屈んだのだが、いつまで経ってもかかるべき圧力が背中に来ない。
「遠慮すんなよ」
 言いながらナインは首だけノアの方を振り返る。そこには、戸惑いというよりも何をしているのか意味がわからないという表情を浮かべたノアが立ち尽くしていた。
「仕方ねぇな…」
 立ち上がり、頭を掻きながらナインはノアの方へ歩み寄る。
 そして、一気にノアの足と胴を抱え上げ、胸の前に抱き上げた。
「首に腕回せ」
 ノアは言われるままにナインの首に手を回す。今度は腕の中で戸惑いの表情を浮かべていた。
「しっかり掴まってろよ」
 応えの代わりに首に回される手に力が入るのをナインは感じ、夜の闇に踏み出した。

 貴族街区を抜け、ナイン達は商業区に入る。
「降ろすぞ。ちょっとの間我慢してついてこい」
 建物と建物の隙間を縫い、街を区切る壁の破損した箇所を抜けるナイン独自のルートから商業区に入った。その裏通りから商業区の大通りに出ると人通りが劇的に増える。昼間に行われていた騎士団凱旋パレードから夜に至る今まで賑わいが続いているのだ。
 商業区ではなにかにつけてお祭り騒ぎに発展する。行事により人が集まり、物が集まる。商業区で店を開く者にとってそれは商売機会に他ならない。行事で浮かれる人々の財布を狙い、商人たちはこぞって商売気を出し始めるのだ。
 まあ、単純に騒ぎたいというだけのようにも見えるけどな…。
 工業区で働く人間、果ては商業区で店を出す者まで、街路にまで展開されたテーブルで騒ぎ立てている姿を見て、ナインは呆れ気味に思う。
 商業区の人間には、顔見知りも多い。いくつか知った顔があったが、今はノアを連れているため、足早に町を抜けていく。灯りが街灯だけという薄暗さに加え、人通りも多い。故意に意識させなければ気づかれることもないだろう。
 しかし、連れているノアの格好の特殊性を考えると楽観もできない。何事にも異物が混じっていれば自然と意識が行く。印象に残らないように。そう考え、ナインは目的の場所へと急いだ。

「邪魔するぞ」
 ノアを引き連れ、ナインは街路沿いの店に入る。所狭しと商品が並ぶその店は靴屋だった。
「あら、ナインちゃんじゃない?おひさ~」
 店長自らの接客にナインは片手を挙げ、挨拶をする。
「相変わらず気色悪い言葉遣いしてるんだな」
「ナインちゃんひどぉ~い!!私の乙女なはぁとが傷ついちゃうわーん」
 大きな身体をくねくねと揺らしながら男店主は身を抱き、ナインに不平をぶつける。それをはいはいと受け流し、
「この子に適当な靴を見繕ってほしい。動けるやつがいい」
 ナインの紹介に背後からノアが顔を出す。
「あと外套なんかあれば譲ってくれないか?」
「あら、あらあらあら~!!」
 ノアの登場に靴屋男店主の視線が獲物を見つけた猛禽類のようになる。
「かわいい子じゃな~い!なになになに?ナインちゃんの彼女?」
「ちげーよ。仕事関係でちょっとな」
「あらそう?残念ねぇ…」
「いいから!!頼んだぞ」
 会話の間、ずっと不思議そうな表情をしていたノアを男店主に預け、ナインは店先に出て周囲を一望する。
 こちらの様子を伺うような気配はない。
 まだ捕捉されていないのか?
 もしくは必要なしと見做され、捨て置かれているのか?
「ナインちゃ~ん!準備できたわよぅ!」
 店主の声にナインの思考が切られる。再度店に入るとそこには肩から膝下まですっぽりと外套を身に纏ったノアがいた。
「さすがだな。要望通りだ」
 足首まで覆う動きやすそうな靴を履き、ついでに依頼しておいた外套の方も、地味な色合いで街の人混みに溶け込めそうなものだった。フードも備えており、緊急時に顔を隠すこともできる。自身の意図を汲み取ったコーディネートにナインはカマーオに賛辞を与える。
「あらん?私を誰だと思っているの?フローレンスフットマッスルのカマーオ店長よ?」
 カマーオはナインに向けて、ウインクを放つ。
「足も怪我していたようだし手当をしておいたわ。…にしてもナインちゃん!こんなかわいい子を裸足で連れまわすなんてひどいわ!なんなの?そういうプレイなの!?なんだったら私で---」
「そんな趣味ねぇよ!!」
 カマーオの悪ふざけの追及を一通り躱し、ナインは靴代、外套代より少し多めの貨幣をカマーオに手渡す。それを受け取りながらカマーオは先程までとは打って変わって声を潜め、
「ねぇ、ナインちゃん。この子何者なの?」
 ナインに問いかける。続けて、
「この子が身に着けている服って古代技術の製法で編まれた特殊なものよ?」
「そうなのか?」
「少なくとも今の王国内に存在しないのではないかしら?それにこの子…ちょっと異常よ」
 カマーオは気づかれないようにノアに一度視線を送り、
「足の手当てをしている間、身じろぎ一つしなかったの。普通は痛みで身を強張らせたり、取るべきリアクションがあるでしょ?それがないの…」
 カマーオ店長が感じたこと。それはナインも感じていた。
 貴族街区で傷口の具合を診た時、傷口に触れたにも関わらず、痛がる様子をまったく見せなかった。触れる傷口は熱を持たず冷たく、傷つきはしているが血が溢れてこない。
 どこか正常ではないという感覚を受けていた。
「余計な詮索だとは思うけど…気を付けるのよ」
「ああ、貴重な情報が聞けた。ありがとよ」
 ナインは感謝の言葉を伝え、カマーオ店長と話をしている間、静かに姿見の前に佇んでいたノアを呼ぶ。呼び声に反応し、ノアはとことことナインに駆け寄る。
 その姿は普通の少女と何ら変わりないように見えた。
 いってらっしゃいと送り出す野太い声に後ろ手を振り、ナインはノアの手を引き店を後にした。
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崎原 一研

エキゾチック:
外国の雰囲気・情緒のあるさま。異国的。
外国の人から見れば日本も外国。

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