CrossConnection 00-01

CC
02 /13 2013
 大いなる力
 御すことの出来ぬのなら
 それは力ではない
 脅威だ

   ◇
 轟音。
 激突音と破砕音。音と共に城門がこじ開けられ、軍勢がなだれ込む。
 黒と赤の旗で彩られた城砦の要たる守りが打ち破られ、攻勢を行う軍勢が沸き立ち唸りのような声を上げる。重なり合い増していく歓声を背に受け、白基調の鎧を纏う軍勢は身体を前へ前へとねじ込んでいく。
 歩により砂埃が舞い上がり、拡散して視界を妨げる。城壁内部は満足に奥を見通すことができない。更に、人の波。開門により開けた数歩先ですら、迎撃にかかる兵士達により間もなく侵食される。
 押し寄せる波を剣で薙ぎ払い、盾を振るいこじ開ける。
 其の激流の最中を切り開き、抜け出す者達が現れる。
 白を基調とした軍勢の中にあり、一際目立つ白。白銀の鎧を纏った騎士が一人、また一人と波を突き抜けていく。背中に燦然と輝く紋章、そこに描かれた獅子の如く、猛々しく、力強く突き進み、それぞれの方向へと散る。
 先が見えなくとも関係ない。騎士達はこの砦のことを把握していた。
 立地を利用した山岳砦。ここは二年前までは白の軍勢の拠点の一つであった。しかし、現在相対している黒と赤の軍団の攻撃により撤退を余儀なくされた。二年前のその時、白の軍勢は一方的で圧倒的な敗北を喫した。
 今回の攻略戦はこの山岳砦の奪還のため。そして、不名誉を拭うためのものでもある。
 万全の戦力を整え、正面から正攻法で力を見せつけ奪い返す。
 情報は多分にある。そこから最適の役割、進攻経路が決められた。

 その戦場の中を駆ける一人の若き男騎士にも役が与えられていた。他の者よりも一回り若い騎士は、城門を、人波を抜け、北西方面への進攻を行う。城壁沿いの時計回り、砦の中心部へと向かう登る経路ではなく、降る経路へ。
「来ているか!?」
 駆け、正面を向いたまま、男は叫び背後へと問いかける。
「問題ない!」
 男の背後、三歩ほど離れた位置から声が返った。同じく白の鎧を身につけた女の騎士。男同様、戦場において一回り若い。
「いつも通りにいくぞ!」
 男の声を合図に女騎士は男の前に競り出す。頭で一つに纏められた金色の髪が翻り流れる。男はそれに追従した。
 息つく暇もなく、城壁の上から弓兵達が弓を構える。だが、女騎士は真っ直ぐに前を見据え、その方を見向きもしない。代わりに男の方が一歩分、女騎士に距離を詰める。女騎士の視界に弓兵の姿は入っている。その姿に気づかぬわけではない。それでも左手に持つ盾はそのまま。右手に持つ黄色の輝石が埋め込まれたロングソードも同様。二人の騎士は颯爽と駆けるのみ。
 しなりから引き絞られた矢が飛ぶ。
 矢は女騎士に的中する軌道に乗っていた。
 剣で払うこともせず、矢はそのまま女騎士との距離を結ぶ。
 ---当たった。
 だが、矢は女騎士の身体に突き立ってはいない。
 矢は地に落ちる。その鏃には土塊が纏わりついていた。
 次の射手から更に矢は飛ぶ。
 しかし、女騎士の身体に到達したかと思えば、再び跳ね返るように地面に落ちる。
 女騎士は矢が当たる衝撃すらも歯牙にかけず、道を駆ける。否、衝撃など感じていない。突如現れる土塊が全てを受け止め、そのまま地に落としていた。
 矢が途切れる。駆ける女騎士の影から突如男騎士が姿を現す。女騎士の背後に張り付き、弓兵の視界、射線から外れていたのだ。手にはナイフを握り、既に投擲の溜めを作っていた。
 腕を振り、放つ。
 ---命中。
 高さの優位からの慢心か、そのまま次の矢を構えに入っていた弓兵の喉に突き刺さる。
 間髪いれず、腰のホルダーからナイフを引き抜き、投げる。
 再び命中。流れる動きで三投目に入る。次の狙いは前方に現れた剣兵へ。
 だが、それは投じられない。
 女騎士が剣兵へと距離を詰めていた。
 剣兵は女騎士の急激な接近に反応できていなかった。咄嗟に剣を身体の前に構えるが、女騎士は踏み込みで以って、真一文字に剣を走らせた。
 男と女の白騎士はお互いの戦い方、特性を理解していた。
 女騎士は防御と瞬発的な突撃力。男は中距離と小回りの効く素早さ、戦闘技法をそれぞれ持つ。
 最初の混戦では、男の至近距離での戦闘技法を利用し、人波を乗り越えた。現在の通路では女騎士の防御能力を盾として用い、飛び道具を避け、男の的確な投擲により撹乱、殲滅。互いのタイミングを把握し、補い合うことで目的を速やかに満たす絶妙なコンビネーションが二人の間にはあった。
 このまま止まることなく、予定の地点への進攻が完了するだろう。そう思われた矢先---
「止まれ!」
 男が危機を察知し、腕を伸ばし女騎士の身体をかき抱く。男は足を地に立て、曲がり角寸前で二人分の慣性を辛うじて殺しきった。
 その眼前を、覆い妨げるように火柱が突発的に立ち上がる。
「勘がいいじゃねぇか」
 燃え上がる炎の膨大熱量から二人は距離を離し、声に身構える。
 やがて曲がり角から先程の声の持ち主が姿を現す。
 地から芽吹くように炎が辺りに広がっていく。そして、その上を紅の輝石の埋め込まれた剣を抜き放ち、悠然と歩く人物。
「対話者か!?」

   ◇
「『守れ』!!!」
 女騎士が地に剣を突き立て叫ぶ。
 それに呼応し土が競りあがり、相手によって放たれた豪炎を防ぐ。
「王国が対話兵装を増強したってのは本当みたいだな。もう一人も『対話者』なのか?隠れてないで語り合おうぜ!」
 二人、土壁に隠れながら男が悪態を吐く。
「なんでこんなところに『対話者』が?それにあいつ、敵も味方も関係なしか?自国領だぞ」
 仮にもこの場は眼前の敵にとっての陣地。それにも関わらず、何処かれ構わず紅の男は炎を撒き散らす。燃え移る物が少ない城砦ではあるが、敵も味方も関係なしに拡散をやめない。
「そんなこと今関係ない。奴を倒すことだけを考えろ」
 女騎士の冷静な言葉に余計な考えを払う。
 道を切り開き、制圧を行い、敵の退路を断つ。その役割を果たすためには目の前の男を倒さなければならない。
 相手は『対話者』。こちらも『対話者』であるのだ。やれないはずはない。
 だが、問題はその深度。状況から察するに紅の男は相当な深さにいる。
 隙を見て土壁から半身を出し、ナイフを投擲する。
 狙いをつける間はなかったがナイフは敵、対話者の額に飛ぶ。
 命中するという寸前、ナイフが、
 ---消える。
 対話者の男は笑みを浮かべる。対して白騎士の男は舌打ち。状況は---悪い。
 先程投げたナイフは蒸発したのだ。紅の男の纏う不可視の熱膜によって。
 『対話者』に有効なのは『対話兵装』のみ。
 目の前にいる対話者の深度レベルでは通常の武器を当てることさえできない。男騎士のこれまでの行程で使用してきた全ての武器はこの対話者の前ではガラクタも同然。現在まともに攻撃を加えられるのは黄の輝石を埋め込んだ女騎士の持つロングソードともう一本。
「おまえも使え」
 女騎士の声に腰の後ろに納めた短剣に手を添える。
 ……怖い。
「ここで私達がこいつを止めなければ後続の連中は嬲り殺しだ。---私たちは力を持っている。力持つ者はそれを振るわなければならない。それが『聖歌騎士団』である私たちの責務だ」
 真っ直ぐな瞳と言葉。それを避けることはできない。白騎士は思う。
 ……逃げ出すことなどできない!
 腰の短剣を握り締める。
「---やるぞ」

   ◇
 燃え盛る炎の中心に立ち、二人の敵と対峙しながら、対話者の男は余裕の笑みを浮かべていた。
 自身の強さを微塵も疑わない。男は確信を持っている。
 深くアストラル界と繋がっている実感がある。
 背を支え、押し、導く声。
 王国の騎士団の対話兵装配備は急造の物であると聞いている。少しは使える輩がいるらしいが、そいつらは本陣へと向かっているだろう。目の前にいるのは対話兵装を手にして日が浅い若輩の男騎士と女騎士と言ったところか。咄嗟の反応と腕はそれなりにあるらしいが深度の差を見てひるんだのか、対策を決めあぐねているように見える。
 いくら考えても無駄ってもんだ。---まあ一匹目の獲物だし、少しぐらい付きあってやるか。
 端から端まで蹂躙していく。そのための城砦最下層からのスタート。人数だけは吐いて捨てるようにいやがる。
 その全てを焼き尽くす。
 そうすることで王国との格の違いを見せ付ける。急造の対話者なんざ役に立たないことを教えてやる。
 ---土壁に隠れた白の騎士達が動く。
「さあ…始めようじゃねぇか!!!」

   ◇
 白騎士達は土壁の影から左右に別れる。一瞬の思案の後、対話者の男は女騎士の方に剣を突き出す。
 剣の先から炎が放たれた。それが到達するよりも先に女騎士は地面に剣を突き立てる。土壁が立ち上がり、直線帯状で飛んできた炎を防ぐ。
「甘ぇ!」
 対話者の男は剣を振り上げる。その行動と共に炎がうねりを見せ、土壁の上部を乗り越える。女騎士は予測していたのか身を低くし、地面を転がり襲い来る炎をかわす。その状態のまま片腕を付き、再び女騎士は地に剣を突き立てる。今度は複数の土壁が通路を満たすように立ち上がった。
 対話者の狙いは目視によるもの。土壁によって姿を隠せば、的確な狙いをつけることはできない。
「考えたじゃねぇか!だがそんなものは関係ねぇ!---『焼き尽くせ』ぇ!」
 対話者は体を使い、大きく剣を振るう。女騎士が剣を突き立てた位置を中心に炎の柱が立ち上がる。範囲は数メートルに及ぶ。土壁の影に隠れていようが関係ない。その場に居た者は柱状に渦巻く炎に巻き上げられるだろう。
 炎が巻き上がり、数秒経って消失する。
 まずは一人目。
 しかし、対話者の男の考えとは裏腹に炎に巻かれた女騎士の姿は見えない。代わりに地面に球状のこぶのような隔たりが出来ていた。
 防御特化か。
 対話者の男は考える。あれだけの防御壁を作り上げるには時間がかかる。炎を受け流すための球体。そして自身を覆ってしまうだけの形状と質量。咄嗟の防御ではない。位置もその場から動いていない。女騎士は最初から防御の構えでいる。
 女騎士の防御ならば、炎を防ぎきることができると見越した時間稼ぎ。ならば本命は---
 紅の男近くの土壁から男の白騎士が突如として姿を現す。
 白騎士は対峙する敵へと短剣を突き出し、構える。その白刃には対話者の男が持つ武器と同じく、紅の輝石が埋まっている。
 対話兵装での攻撃であるならば、防がなければならない。だが、白騎士が持つのは『紅』の対話兵装。
 炎ならば、負けはしない!
 紅の男は真っ向から受けることを選択した。
「放て!」
 白騎士の短剣から一気に炎が噴出する。触れたものを一瞬にして消し去ってしまうような膨大な熱量。圧倒的な広がりを以ってして空間を赤に染め上げる。
 紅の男は呆然とその侵食を見つめるのみ。
 その胸に幽かに浮かんだ感情は、
 ---恐怖。
 男は炎を扱う『対話者』でありながら、炎を『怖い』と思っていた。
 炎が男を呑むことはなかった。広がりは瞬間的で対話者の男には届かない。広がるだけ広がり、何事もなく消失していくのみ。
 不発か?
 対話者の男が炎に目を奪われ、そのようなことを思っているうちに白騎士が距離を詰める。
 そしてそのまま、白騎士は対話者の持つ紅の対話兵装の刃を素手で掴む。
 白騎士の背後で金属の軽い音がした。そこには先ほど白騎士が構えていた短剣が転がっている。
 だが、先程の短剣とは異なる点があった。埋め込まれていあった紅の輝石は砕けていたのだ。
「おまえは怖くないのか?」
 白騎士の問いかけ。
 それに対して、紅の男は剣を引く。白騎士の手を振り払おうとする。しかし、
 ---動かない。
 白騎士の力が強いのか。違う。それよりも剣が重い。
「俺は怖い」
 白騎士の独白。独白でありながら紅の男は動揺を得る。
「---だから何がだ!?」
 紅の男は叫ぶ。
 認められない。認めることはできないと直感し、答えをはぐらかす。
「『解放しろ』!!!」
 次の瞬間、発せられた白騎士の言葉により紅の輝石から炎が噴き上がった。
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崎原 一研

エキゾチック:
外国の雰囲気・情緒のあるさま。異国的。
外国の人から見れば日本も外国。

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