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GoodLack 05-04

GoodLack
12 /24 2012
 三橋様が光と共に消え、自然と希望さんの方を向く。それは希望さんも同じのようでソファに座る希望さんと瞳があっていた。
「お、おはようございます…」
 先程の黙って希望さんの話を聞いていた件もある。かける声が意識せず、弱いものになっていた。
 その言葉に対して、希望さんはなにも言わず、無表情でちょいちょいと軽い感じで手招きをしていた。それに従い、希望さんが座っているソファへと歩き、視線の高さを合わせるように膝をつく。その瞬間。
 希望さんが自分に抱きつく。
 ソファの手すりを乗り越え、脇の下に手を回し、胸に頭を埋めて。
 抱きしめる力は強く、存在を確かめ、感じているようだ。
 それに応え、自分も希望さんを抱きしめる。希望さんの身体が微かに震えているのが感じられ、一層強く抱きしめた。
 長くそのままで。二人とも言葉を発せず、静かな時間が過ぎた。
「あ、いたたたた!」
 背中に鋭い痛みが走る。
 昨日の打撲の痛みも少々あったが、それとは違う。背中の肉を抓まれた痛みだ。痛みを訴えるも、希望さんは自分の胸に顔を埋めたまま動かない。更に抓む力を強くするだけ。
 何かを訴えようとしているのか。
「あの…怒ってます?」
 自分の問いに希望さんは顔を埋めたまま頭を縦に動かす。
「先程黙って聞いていたことですかね?」
 問いかけに希望さんの首が一瞬縦に動きそうになっていたが、踏みとどまったようで首を横に振る。
「では…日記を読んでいたことで?」
 次の問いでは、数秒の間が空いた。その後問いかけられている状況を思い出したように、一度希望さんの頭がぴくりと動き、ぐりぐりと頭を押し付けながら首を横へ振る。抓む力は一層強くなった。
 いつもならすぐにでも怒りだすようなことを挙げていったのだが、希望さんが求めているのはそういうことではないみたいだ。
 こんな状況は初めてで正直戸惑う。
 本来ならば、抱きしめるという行為は喜ばしい感情からするものだ。怒っているのならば、突き放し、罵倒し、放置するのが普通だろう。それなのに今、希望さんは私を見るや否や一言も交わさず、強く自分を抱きしめながら、怒っている。
 この行動の矛盾。何か理由があるはず。
 ともすれば、この抱きしめるという行為の意味は。
 それは私の存在をしかと感じるためのものではないのか。
 そうであるならば、今希望さんが欲しいと思っている謝罪の言葉は…。
「心配かけて…すいませんでした…」
 自分はとことん鈍い男だと思う。
 希望さんは首を縦に振る代わりに、抓んでいた指を放し、一層強く、自分を抱きしめた。
 そうだ、希望さんは自分のことよりも他の人のことを優先する。それは感情においても同様で、別に自身のことで怒っていたのではなく、私の身を案じて怒ってくれていたのだ。自分をないがしろにすることのある私への怒り。希望さんはこれまでずっと私の身を案じてくれていたのだ。
 目の前にいる私が健在であるということへの安堵。そして、それが本当の感覚であるのか、失ってしまってはいないかという不安。それを抱きしめることで認識しようとしていたのだ。

 大切にされているのだなという幸福感。
 と共に、自分はそれに応えられているのかという不安感が今自分の中にある。
 今回の件であっても、希望さんは私に不満を感じていた。遊園地での拒絶を思い出してしまう。自分が希望さんの想いに素直に応えていなかったばかりにすれ違いが生じた。それを利用され、希望さんは決断を迫られていた。
 思い出してみると寒気がする。希望さんが私の助けを待たず、『神様』になることを認めていたらどうなっていただろう。この腕の中にある温もりはなくなっていたはずだ。
 しかし、希望さんは自分を信じてくれていた。苦難を一人で耐え、加えて私を助けようとして自らの身を危険に晒しまでしてくれた。

 これだけのことをしてくれて、こんなにも自分のことを想ってくれている人に自分はなにをすればいいだろうか。
 そうだ、応えなくてはならない。
 その想いは義務感などではなく、自分のうちから自然と溢れ出る感情故だ。
 この腕の中にある温もりをなくしたくない。そして、自分のものとしたい。
 
 希望さんの肩を掴み、抱きついていた身体を離す。正面から瞳を見据え、言葉を内に溜める。
 突然の行動に希望さんは驚いたような表情をする。その目尻には涙が浮かんで見えた。
 身体が勝手に動く。

 気づけば、希望さんの唇に口付けをしていた。
 ソファの肘掛けを乗り越え、希望さんの背を抱き、強引に引き寄せて。
 希望さんは初めは驚いたのか、身を強張らせていたが、次第に身を委ねてくれた。
 考えていた言葉も、順序も台無しだ。でも、身体が自然と動いてしまったのだから仕方がない。
 静かで、永遠とも錯覚してしまえそうな数秒の時の経過の後、ゆっくりと唇を離す。希望さんの唇が名残惜しそうにこちらに少しついて来て、引いた。
 希望さんは瞑っていた瞳を静かに開き、どうしたの?というようにこちらを見つめていた。
「好きです」
 思えば、自分から言ったことがなかった。
 いつもいっしょに居るからこそ、言わなくても伝わっているものだと思っていたし、自分から言うのはどこか恥ずかしくもあったから言えなかった。しかし、そんな態度が希望さんを不安にさせていたのだ。
 言わなければならない。伝えなければならない。
 自分の揺ぎ無い気持ちを。
「三橋様よりも、この世界の、天界の、他のどの誰よりもあなたが好きです」
 抱きとめていた腕を離し、希望さんの右手を自身の右手で取る。
「この身朽ち果てるまで、あなたをお守りさせてください」
 永遠の愛と、忠誠をここに誓おう。
 騎士が姫に忠誠を誓う儀式のように、その手の甲にそっと口付けをした。
 その光景を見て、希望さんは照れているのか俯いている。しかし、照れながらも口を開き、
「私も…」
 羽塚が好き。と応えてくれた。
 身に余る光栄であると、その言葉に感極まっている最中、俯いていた希望さんが上目遣いで自分を見つめていた。それに気づき、視線が合い、顔を真っ赤にしながら希望さんが呟く。
「もう一回…」
 言いよどんだ言葉でありながらも、ささやかな声量ながらもはっきりと聞こえた。
「ちゅー…して…」

 その視線と言葉に自分の中の引き金が引かれた。
 ソファの肘掛けを乗り越え、希望さんを押し倒す。
 反対側の肘掛けに希望さんの頭を乗る。その仰向けになった希望さんの頭の両隣に手をつき、覆いかぶさる。上から見下ろす自分と視線が合い、希望さんは自分の頭に両腕を回す。そして、首を一度縦に振った。
 
 今度の口付けは動物的な激しいものだった。
 先程の静かで大人しいものとは違う、お互いがお互いを求め合う本能的なもの。
 舌を絡ませ、下唇を食み、唾液を交える。自分ではないものを受け入れ、求め合う。
 唇の感覚、舌先に感じる快感、それに加え、相手を受け入れるという充足感が快楽へと変わり、次を、次をと求め続けた。まるで相手の唾液は媚薬のようで、その唇は禁断の果実のよう。
 呼吸をするのも忘れてしまうほどで、思い出したように唇と舌の絡みを解く。離れる際の口と口とに繋がる唾液が蠱惑的で淫靡だった。
 仰向けになっている希望さんの息が荒い。頬はほんのりと桜色に染まり、表情は快感にとろけきっていた。目は焦点があっていないのか、おぼろげになっている。それでも希望さんの口は、もっと…、もっと…と動いていた。
 もう一度。
 もう一度。
 酸素を求め、呼吸をする度に離れ、数秒の間をおいて再びお互いを求め合う。
 何度目かわからない交わりの後、首に回っていた希望さんの腕が解かれ、自分の右腕を握っていた。気づき、体重を左腕に移し、右腕を浮かせる。その右手は希望さんの手により導かれ、希望さんの左胸の上に乗せられた。その上から希望さんは手を重ねる。柔らかなふくらみが確かに右の手の平に感じられた。
「ねぇ、羽塚…」
 荒い呼吸の合間の湿り気のある呼びかけ。背筋がぞくりとするような甘ったるい囁き。
「一線…越えちゃわない…?」
 その魅惑的な囁きに。
 辛うじて、残っていた理性が、消し飛んだ。

 数時間が経った。
 体力が満足に回復していなかったのか、そのまま眠りに落ちていた。
 いつのまにかベッドに移ってきていて、隣では希望さんが眠っている。昨日は寝ずに自分を看病してくれていたのだ。疲れが溜まっていたのだろう。それに…。
 大分無茶をさせてしまったかなぁ…。
 おぼろげな記憶ながら確かな感覚が残っていた。
 左側で眠る希望さんの頭を右手で撫でる。眠ったままでありながら、柔らかく微笑んでいた。
 その表情を見て、この穏やかな寝顔を守っていきたい。そう決意を新たにする。
 暖房を点けたままにはしているが、季節は冬だ。肩の下まで下がってきていた布団を再度掛け直した。寒さで身体を壊すというのもあるが、そのままにしておくと、希望さんの胸元が見えて、自分を抑えられなくなりそうだったからだ。眠っているのを再度起こしてしまいかねない。
 布団を肩口まで上げると私が動いている気配を察したのか、希望さんの瞼がゆっくりと開かれる。
「起こしてしまいましたか?」
 目が合うや、希望さんの顔は真っ赤に染まり、ぐっと身を寄せ、胸元に顔を埋め、表情を隠す。
「あんたのせいでせっかくの有給が台無しよ…」
 照れ隠しを言う希望さんには悪いが、可愛いなと表情がほころんでしまう。
 寝起きの緩やかな時の流れの中、今、とても幸せな空気を感じる。それは彼女も同様だろうか。そうであってほしい。

 彼女は不幸だ。
 それは同情に値するほどのもので、今回の不幸でも命を脅かされる羽目になった。
 この体質のせいで彼女はこれまで辛い人生を歩んできた。
 だからこそ。
 彼女には幸せになってほしい。
 そのために自分は彼女を守る。

 しかし、考えようによっては不幸も悪いものじゃない。
 不幸な彼女だからこそ、自分は彼女の傍に居ることができる。今回の件だって、その不幸のおかげでより仲を深めることができた。
 不幸でも最後に幸せにしてあげればいいのだ。
 それをするのが自分の役目。
 彼女を守り通し、彼女を幸せにする。
 やり遂げてみせる、絶対に。
 そう、自分は希望さんに誓った。

「希望さん」
 自分の呼びかけに希望さんは埋めていた顔を上げる。まだ頬を赤く染めていたが幾分か落ち着いたようだ。
「あなたは私が幸せにしてみせます。これからも、ずっと…」
 そう言い、希望さんを抱き寄せる。
 対し、希望さんは自分を見つめる顔に笑みを携え、
「よろしくお願いするわ。私の天使兼、王子様」
 と応え、自分で言った言葉に照れて、再び私の胸に顔を埋めるのだった。
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GoodLack 05-03

GoodLack
12 /16 2012
「あの一言をいただいた時から私はあの人に惹かれていたんです」
 入鹿は胸に両手を当て、温かく大事な思い出を抱きしめるようにして言葉を紡ぐ。
「その後も私のことをことあるごとに気にかけてくださって…。本当に言ったとおりに守ってくれてとても幸せでした」
 彼女にとって、かなり昔のことのはずだ。それでもつい最近のことのように自然と微笑むことができる。
「忙しいはずなのに、仕事の合間にこっそりと様子を見にきてくださるんです。私に気を遣わせないように、遠くから。でも私…、目が見えない分、逆に感覚が鋭くなっちゃってる部分もあって、彼の息遣いや彼に染み付いた煙草の匂いから来てくれているんだなぁって感じることもありました。そういう時はわざと気づいてない振りをしていたんですよ?」
 おもしろいでしょう?と入鹿が問う。
「一騎さんは普段、自分からあまり物を言わない人なんですが、そこが渋いと言うか、不器用と言うか」
 幸せそうな表情、その口元は、
「ギャップ萌えなんでしょうかー?うふふふふー」
 完全に緩みきっていた。
 
 現在、私は入鹿から一騎さんの惚気話を聞かされていた。
 なんでこんな状況に陥っているかというと、発端は私の言葉からだった。
「あの無愛想な男のどこに惚れたの?」
 入鹿にあそこまで信頼されていて、憧れの対象のよう言われていた存在なのだが、私や羽塚と相対していた時の一騎さんは仕事を冷徹にこなすという印象の強い、無愛想な男だった。その男が普段どのような人間であるのか、何気なしに聞こうと思った言葉のつもりだったが、どうやらそれがいけなかったようだ。
 私がその言葉を入鹿に投げかけた瞬間だったと思う。あの大人しくて、いつでも優雅に緩やかに振舞いそうな入鹿が、俊敏な動きと勢いで私の両肩を掴んだのだ。
 開口一番。
「一騎さんはああ見えて、すごくいい人なんです!!」
 力の篭った言葉を告げられた。
 突発的な行動にも驚いたが、それよりも入鹿の顔が目の前に接近していることに焦った。
 入鹿は真っ直ぐに私の目を見つめていた。その瞳はとても純真で澄み切っていて、穢れないものだった。燦然と輝き、私に伝えてくる入鹿の意志はおそらく「語らせて」だろう…たぶん。
 私は察した。というか観念した。
 こういう人間には「やめろ」と言う言葉は通じないのだ。

 そして今、羽塚の眠っている隣の部屋で私たちは二人仲良くソファに並んで「私の好きなあの人!」なテーマでガールズトークを繰り広げていた。入鹿が一方的に。
 違うか、これじゃヒアリングガールか。

「少ししゃがれてますけど、落ち着いていて深く響く声…。ぞくぞくしちゃいますよねー」
 ああたしかにあの声には背筋がぞくりとする。恐怖でだけど。
「顔も今回初めて見たのですが、眼つきが鋭くて、とても力のある眼光で想像していた以上に素敵でした」
 いやあれに敵意を持って見つめられたら、まじ怖いですって。
「いやいやまあまあ。一騎さんがすごい素敵でかっこいいってことはわかったから」
「あと可愛いです。萌えです、萌え」
 それは褒め言葉なのか?一応三十代まではぎりぎりおっけーなのだろうか?しかし、あのベテラン刑事の体で三十代ってのにも驚いたけど。
 わかったから、と入鹿をなだめ、一息溜息をつく。
「あんたそんなに一騎さんのことを想っていたのなら、これまでの羽塚に対するアピールはなんなのよ?」
「アピールですか?」
「あの妙に羽塚を困惑させてた数々の行動のことよ」
 入鹿は視線を上に、顎に右手の人差し指を当て、んーっと考える動作をし、あっ、と言う声と共に胸の前でポンと拳で手の平を打つ。
「ああ!あれですねーうふふ。ほら羽塚さんってからかうと可愛らしい反応してくれるじゃないですかー。それがおもしろくってついー」
 考えなければ気づけないほどに日常化してしまっているのか。羽塚…かわいそうに…。地上に来てよかったね!と心の中で思う。
「いやでもあんた羽塚のこと好きだって言ってるからね?」
 その言葉は紛れもない事実だ。あれのせいで実際少し悩んだりもしたんだ。
「そうですねぇー…羽塚さんは可愛い弟みたいなものというか、弟として好きというか。私、羽塚さんが本当の弟だったらブラコンになってますよ、きっとー」
 私の悩みはまるっきり無駄だったと今ここに証明された。あんだけ悩んでいたのが馬鹿みたいに感じられる。大体この世間知らずの天然娘の好きだなんてあてにならないと気づくべきだった。
「弟のお嫁さんをいびる姉の気持ちというのをやってみたかったのでー、希望さんを所々からかってしまいましたーうふふふふー」
 って故意かよ!つーか弟の嫁をいじる姉の気持ちが体験したいってどんなマニアックなシチュエーションだよ!というかお嫁さんって!
 羽塚の…お嫁さん?

「あららー?うふふふふふ…」
 入鹿の表情が変わる。まるでおもしろいものを見つけた時のような猫だ。
 一瞬、自分が羽塚のお嫁さんになっている姿を想像してしまった。
 それを入鹿に見つかって顔が熱くなるのを感じる。まずい。恥ずかしさで他になにも考えられなくなりそうだ。
「いいですよねー?羽塚さん」
 私の顔を覗き込むようにして入鹿は問いかける。
 それに対して、えっ?だとかあっ!といった言葉しか咄嗟に出てこない。
「優しくって、頼もしくって。そしてどこか忠犬のような可愛さがあって」
 真っ赤になっているだろう顔を見られるのが恥ずかしくて、下唇を噛み、下を俯く。
「私の一騎さんへのお気持ちをお話致しましたので、次は私にも希望さんのお話をお聞かせくださいませんか?」
 話?は、羽塚の?
「羽塚さんとはどんな出会いだったんです?」
 入鹿が隣に座る私に押し寄せてくる。
「どういうところに惹かれたんですか?」
 俯き続ける私に続け、
「でも羽塚さん鈍感で大変じゃないですか?」
 更に続ける。
「どっちから告白したんですか?やっぱり羽塚さんから?」
 更に更に。止まらない。止まらない…。
「う…」
「う?」
「うにゃぁぁあああああ!!!」
 入鹿の責め苦に耐え切れなくなって反撃に出る。叫びと共に、言い寄ってきていた入鹿を勢いのままソファに押し倒す。
 ああ、もうわかった。わかったさ。
 そんなに聞きたいのなら聞かせてやる!
「あいつとの出会いは特に変哲もないものだったけど、意識し始めたのはあいつが初めて声をかけて来た時!気づいたらいつのまにか惹かれてて、どんなところに惹かれたかっていうと…やっぱり優しいところっていうか支えてくれるところっていうか!たしかに鈍感で大変だと思うことも、ありますけど!逆にそこが味になっているっていうか…。でも告白はしてもらいたいなぁって…、私はこんなに羽塚のこと好きなのにぃ!」
 はぁはぁと荒く息を吐き出す。入鹿に途中で何か言われたら恥ずかしくなって言葉を続けられなくなる。そう思って一気に言葉を続けた。勢いに任せてしまえばなんとかなるもんだ。

 ふふーんと入鹿に覆いかぶさった状態で勝ち誇っていた。その時、
「え、えーっと…呼びました?」
 突然横から声をかけられた。
 聞き覚えのある声に咄嗟に顔を挙げ、視線を送る。
 あ、やっぱり羽塚だー。
「ああぁぁー…」
 押し倒した入鹿の身体に顔を伏せる。
 き、聞かれてた?聞かれてたよね?一体いつから?
 というか羽塚が目を覚ましてる!?でも、あんなの聞かれてたらと思うと合わす顔がない!
「あ、あのそんな時から私のことを…!きょ、恐縮です!」
 さ、最初から聞いてるじゃないかー!
 あまりの恥ずかしさに更に深く顔を埋める。埋めているのは入鹿の胸だった。くそぅ!柔らかくてどんどん埋まりやがる!
 うあああ!と言った具合に入鹿の胸にぐりぐり頭を埋めていると入鹿の胸が小刻みに上下に揺れていた。

「ふふ…うふふふふ…あはははは!」
 入鹿がソファに仰向けになったまま笑い出す。
「あははははは!」
 その笑いは長く続いた。私と羽塚はその笑い声を呆然と聞いているだけだった。次第にその笑いも収束していき、
「はーっ…本当におもしろいですね、あなたたちは…」
 笑いで出た目尻の涙を指で拭いながら、入鹿は息をつく。
「私、あなたたちのところに来てよかったです」
 その言葉と共に入鹿の身体が柔らかく輝き出していた。
 一瞬戸惑いを覚えたが、この光には見覚えがある。この間の大震災の時、羽塚が天界へ帰る時に発していた光だ。

「帰るの?」
「はい。お世話になりました」
 私は入鹿の上から起き上がり、その手で入鹿を引き起こす。その際、壁に掛けられた時計が見えた。その針は丁度12の位置で合流しようというところだった。
「実はまだ大分仕事が残っているんです。でも、来た甲斐がありました。羽塚さんが無事なのも確認できましたし、お二人が一緒にいる姿を最後に見ることができました」
 入鹿の話を聞きながら、私はその両肩を軽くはたき、服装を整える。そのことに入鹿は軽く会釈をした。そして、言葉を続ける。
「私も一騎さんとあなた方のような関係になれるよう努力していこうと思います」
「約束、守りなさいよ」
 あの一騎さんと入鹿が、私と羽塚みたいな関係っていうのはいまいち想像できないが、まあ私たちの間に幸せのイメージが見えたのならそれはそれでよしとしよう。
「はい。慎んで」
 答え、入鹿は立ち上がる。歩き玄関の方へ静かに歩む。転送のための光はもうほぼ全身を埋めていた。玄関の前に到着したところで立ち止まり、こちらを振り向き、一礼をする。

「入鹿様!」
 入鹿が何か言葉を発するよりも前に羽塚が入鹿に声をかける。
「またいらしてください!…私たちの家に」
 私たちの家。
 羽塚の言葉に私は一度俯く。
 一息吐いて、入鹿をまっすぐに見据える。
「うん。またいらっしゃい」
 見送りの場面というのに、にやけ顔ではどうにも締まらないじゃないか。
「はい、またお邪魔させていただきます」
 再会を誓う言葉と華やかな微笑みを残し、ここ数日の間、私たちを騒がした神様は光と共に去っていったのだった。

崎原 一研

エキゾチック:
外国の雰囲気・情緒のあるさま。異国的。
外国の人から見れば日本も外国。

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