GoodLack 04-10

GoodLack
09 /30 2012
 全力を込めた攻撃と共に羽塚は地面に倒れた。羽塚はそのまま立ち上がってこなかった。心配になり、慌てて駆け寄ってみれば、私の心配とは他所に微笑を返してくれた。だが、その表情の余裕とは裏腹にもう自力で立ち上がるのもきつい、だそうで、肩を貸し、なんとか立ち上がらせる。その時触れた身体は人間のものとは思えないようなひどい熱を持っていた。驚いて問い詰めたが、羽塚は大丈夫だと言う。それが強がりなのはわかる。それでも頑なに隠そうとしているのは、きっと私に余計な心配をさせたくないのだろう。
「ほんとあんたはいつも無茶して…」
 全てが終わった。日常がもどる。そう安堵した瞬間だった。

「うおああああああああああああ!!!」

 獣のような咆哮が廃倉庫に響き渡る。
 その咆哮の主は、『希望ノ羽』の光を消し、沈黙したはずの一騎のものだった。
「おれは…負けられんのだ…!今度こそやり遂げるのだ!!」
 冷静だった男の激しい感情の吐露。そして、その意志が男の身体を動かし始める。
 床に拳を突きたて、震える足を押さえつけながら一騎は立ち上がる。壁に強くぶつけたのか、頭からは血を流していた。その影響も相まってか、足元がおぼつかない様子だ。
 それでも男は交戦の意志を示す。
「誓ったのだ…」
 自分を奮い立たせるように額の血を腕で拭い、振り払う。
「あの子を守ると!」
 再度、『希望ノ羽』が輝き始める。この男の意志が枯れない限り、この光は消えることはないのだ。
 ふっと肩にかかっていた重みが消え、羽塚が前へと出る。
「いいでしょう…私も大概頭に来ています」
 等しく『希望ノ羽』を起動させたのか、光を纏い始めていた。
「未遂とは言え、あなたは希望さんを殺した。その意志がある限り安心はできない」
 静かながらも確かな怒りを帯びた言葉。
 羽塚も理解している。この男はその意志を曲げない限り止まることはない。しかし、この男はその意志を貫くためならば、命さえも投げ出す覚悟を持っている。
 ならば、この男を止めると言う事は?

 羽塚が歩を進める。『希望ノ羽』の補助があるのか、今は自分の足で歩くことができている。対して、一騎は『希望ノ羽』の補助をもらいながらも身体を引き摺るように前に進む。
 羽塚には勝ってもらいたい。でも、その手を汚してまでも勝ってもらいたくはない。
 一騎も自分の守りたいもののために必死になって戦っている。その想いもどうにかして成就して欲しいと思う。
 しかし、私にはどうあってもその想いを成就させてあげることはできない。
 私は死にたくない。羽塚と共にありたい。

 どうにかならないのか?どうすればこの場を収めることができる?
 いや、答えは出ている。
 この騒動に必要不可欠な登場人物。
 この場を収めることができるだろう人物。

「そこまでです」

 入鹿しかいないだろう。

 透き通った声が静かに響いた。
 一騎の足が止まる。
 声のした方からこつん、こつんとゆっくりと確かな足音が響き渡る。振り返るとそこには落陽の光を浴びながら軽く、優雅に歩みを進める入鹿がいた。凛と気高く線が通り、それでいて表情は柔和で全てを包み込むような神秘的な雰囲気を纏う。神。そう呼ぶにふさわしい姿だと感じた。
「やめてください」
 私の横を通り過ぎ、更に羽塚の前に出る。羽塚が横に付こうとするが、それを静かに手で制し、一人、一騎の正面に立つ。
「神様だろうとおれを止めることはできん」
 一騎はそう吐き捨て、再度視線を私に絞る。敢えて入鹿から視線を逸らしているかのよう。
「もう…やめてください…。真田一騎さん…」
 名前を呼ばれ、一騎は驚く。
 たしか天使には登録区分のためのミドルネームがあると羽塚に聞いたことがあった。それを挟まないその名は何を意味しているのか。
「わかる…のか?」
 一騎のその声は震えていた。
「わからないわけがないじゃないですか…」
 その問いに対し、入鹿は微笑みを見せる。目端には涙を溜めて。
「その声を…もう一度聞きたいと何度願ったことか…」
 一騎は溢れ出しそうになる感情を堪えるように強く歯噛みし、呟くように言葉を発す。
「すまない…。すまなかった…」
 搾り出す謝罪の言葉。重く、深い。
「仕方がなかったんです…あなたは悪くはありません…それに…」
 入鹿の頬を一筋の涙が伝った。
「救われたんです。あなたが言ってくれたあの一言に…」
 精一杯の微笑みを浮かべたまま。本当に嬉しかったのだと。
「それでも…それでもおれは…!君を…!」
 許せないのだ。この男は自分の誓いを果たせなかったことが。それでこんな遠回しな罪滅ぼしを行っているのだ。
「それでも…納得がいかないというならば…」
 そう言い、入鹿は一騎に向かって手を伸ばす。

「もう一度…私を、守ってくださいませんか…?」

 差し伸べられた手。
「あ…ああ…」
 一騎はその場に膝を屈す。
「入鹿…ちゃん…」
 震える手を伸ばす。そして…。

「約束する…」
 大事なものを包み込むように。
 誓いを込めるように。
 伸ばされた手を一騎は掴んだ。
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GoodLack 04-09

GoodLack
09 /18 2012
 その子は儚く健気で、優しい子だった。
 そうなったのは、この子の心の清純さ故なのか、それとも凄絶なる人生を送らざるを得なかったからなのか。
 どちらにしろ、世界に見放されたその子を俺は…。

「現場にて少女を発見」
 少女の父親はろくでなしだった。
「これより保護をします」
 人身売買の現場。騒然とした場で少女は一人静かに座り込んでいた。
「お嬢ちゃん。もう大丈夫だ」
 手を差し伸べる。声には反応しているが、目の前の手を取ろうとしない。ふと気づく。少女は目が見えていないのだ。
「そうか…お嬢ちゃんがーーの娘か」
 口にした名を耳にし、少女はこちらを向き、問いかける。
「父は?無事なんですか?」
 人の気配がわかるのか、瞳を閉じていても真剣な眼差しを感じるようだ。
「私が悪いんです!私がこんなだから…父は疲れて…」
 少女の盲目は病気のせいだと聞いた。出生時の体質も関係する数百万人に一人がかかる病気。運が悪かったのだ。
「役に立てるならと私は…、恩返しのつもりでここに…」
 たった今、少女は父親に裏切られたばかり。少女の父親は一言で表すなら屑だ。これまでも父親らしいことをしてやったことがあるのか疑問である。この父親を持ったのも少女の不幸だと言える。
「だから…私が全部…返したいん…です…」
 少女の声は震えていた。
「あれ…これは、違うんです…ちがっ…」
 悲しみ、恐怖、虚しさが溢れて出てしまったのか、少女は涙を落とす。

 その姿が、儚く。健気で。

「大丈夫だ」
 少女の頬に触れ、涙を拭う。

「俺が守る」

 なぜ少女はこのように居られるのか。
 なぜこんなにも優しい子が辛い目にあわなければならなかったのか。
「あ…」
 少女は力なく虚空に手を伸ばす。
 それを、強く握り締める。

 その子を俺は守ると誓ったのだ。

崎原 一研

エキゾチック:
外国の雰囲気・情緒のあるさま。異国的。
外国の人から見れば日本も外国。

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