GoodLack 03-05

GoodLack
08 /31 2011
 自分はなんてことをしてしまったんだ。

 自分から三橋様のためになるようなことをしようと言っておいて、希望さんが無理をしている姿が見ていられなくて、見栄をを張るななんて言っていたら、それは激怒されても仕方ないだろう。自分が我慢すればよかったんだ。
 でも、希望さんのあんな姿を見ていたらそりゃ言いたくもなる。
 自身の持つ予知能力で、あらかじめジェットコースターでパニックになっている映像を見ていたから、出発前のガチガチに緊張した様子は相当痛ましかった。
 それでもなんとか、希望さんを立ててあげたいという気持ちがあり、見守ることを決意していたので、せめて気持ちだけでも楽に持って欲しいと思い、言ってしまった言葉だった。
 …それでもここまで自分も我慢していたというのにあの口振りはひどすぎる。
 希望さんもあんなに気にする必要はない。希望さんと三橋様はそれぞれであって、希望さんのいいところはもっと別にある。そのことをいったい、どういうタイミングでどう言えばいいのか。
 わからない。
 自分はどうすればいいのだろうか。希望さんは怒らせるし、三橋様の依頼も完了していない。
 ダメだ。こんなんじゃ全然ダメだ。
 そこそこ天界でも自分の地位を手に入れて、前回の大事件で希望さんを守りきり、専任の観察者になれ、いっしょにいることができてと、そう言ったことが自分の中の自信となっていたのだが、希望さんを傷つけ、怒らせてしまい、「いったいなんの自信だったんだ」、露に消えてしまっていた。

 これまでやってきたことはなんだったんだろうか。
 希望さんにも嫌われてしまってどうすればいいんだろうか。

 そういった不安がどんどん胸を埋め尽くしていく。
 そんな中、さっきの希望さんの今にも泣き出しそうな顔が脳裏によみがえる。

 違うだろ。
「傷ついているのは希望さんだ」
 自分の自信だとか不安だとかは関係ない。自分はどうなったとしても、希望さんの幸せを祈りたい。
 そうだったはずだ。それが自分の中の一番の行動原理。こんなところで悩んでいてもなんにもならない、なるわけがない。希望さんに何をしてあげればいいか、何を言ってあげればいいかわからないが、行動を起こさないとなんにもならない。
 自然と足は動いていた。


 希望さんはすぐに見つかった。少し時間は経っていたが、それほど遠くには行っていなかったようだ。
 その場に座り込んで、背を震わせる姿は、とても弱々しく、自分のやってしまったことを後悔させるには十分なものだった。
「のぞみさん!」
 発見して、緊張から近くに歩み寄れなかったので、少し離れた位置から声をかける。希望さんはその声にびくりと背を震わせ反応したが、こちらは振り向かず、返事もない。
 代わりに、

「何をしに来た?」

 と男の低い声が聞こえた。
 突然の声。反射的にその声の発せられた方を見る。希望さんとそれほど離れていない位置にその声の主は立っていた。歳は40前後といったところ、表情には少し威圧感があり、スーツを着崩した男。その片手には竹刀袋を携えている。始めからその場に立っていたのか、突然現れたのか感知できなかった。希望さんが驚かなかったのでおそらく前者であろう。この遊園地において、相応しくないスーツ姿であるにも関わらず、その存在感は希薄で声をかけられるまで、気づくことができなかった。
「何って…それは…」
 あの場に居ても立ってもいられなくて、とりあえず追ってきたのだ。
 自分が希望さんのためになにができるのか?その答えは未だ自分の中にはない。
「どうした?そんなことだと愛想を尽かされるぞ?というより愛想を尽かされたからこういう状況になっているのか」
 男は呆れたように軽く笑う。もっともな言われようだ。その証拠に希望さんはこちらを振り返ってはくれない。
たったそれだけのことなのに、胸が心がとてつもなく痛い。
 何か言わなくては、何か…
「あの、希望さん…ごめ…」
「謝るぐらいなら帰れ。このお嬢さんが欲しいのは謝罪じゃない」
 言われ、出そうになった言葉を飲み込む。謝るということは自分を許してもらうこと。希望さんのためになることがしたいと追ってきたのに、謝罪なんてこの場ではなんの意味もない。
 だからといって何を言えばいいんだろうか。他に言葉が思いつかない。
「ふぅ…呆れるを通り越して哀れに思えるぞ。そうだな、お嬢さんからもなにか言ってあげたらどうだ?」
 話を振られ、希望さんは背を向けたまま立ち上がる。今から発せられるだろう言葉を渇望してしまう。希望さんが何を求めているのか、希望さんに何をしてあげられるのか。それを知りたくて堪らない。

「私は…」
 鼻にかかったいつもよりワントーン低い声。
「あんたなんかといっしょにいたくない…さっさと入鹿のとこに行きなさい…」
 泣くのを我慢して、必死に搾り出した声。

「やめてください!」
 途端に怒りが沸いていた。それは、拒絶されたことに対する怒りではなく、あまりにも自分自身をないがしろにすることへの怒り。
「いい加減にしてください!あなたはなんでいつもそうなんですか!?」
 怒りの質問にも後ろを向いたままで希望さんからの答えはない。
「いいです!私は勝手にあなたから離れません!私が勝手にやることなんです、あなたはなにも気にしなくていい!」

「ははははは!!言うじゃないか!」
 豪快な笑い声が、自分と希望さんとの間の重い空気に割って入る。
「拒絶されて折れると思っていたが、なかなか気骨がある」
 そう言いながら、男はこちらの方に歩みを進め、希望さんの隣で立ち止まる。

「このまま諦めて『神様』の元へ戻ってくれれば、計画も遂行しやすかったのだがな」

 男はその手を伸ばし、希望さんの首筋を軽く叩き、意識を奪ったのだった。
スポンサーサイト

崎原 一研

エキゾチック:
外国の雰囲気・情緒のあるさま。異国的。
外国の人から見れば日本も外国。

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。